rhの読書録

とあるブログ書きの読書記録。

我らの時代のフォークロア―高度資本主義前史/村上春樹

短編集『TVピープル』収録。

TVピープル (文春文庫)

TVピープル (文春文庫)


今回僕が読んだのは『村上春樹全作品1990〜2000(1)短編集』のもの。収録に当たって改稿したそうだ。
村上春樹本人によると"『我らの時代のフォークロア』において僕が描きたかったのは、失われた時間や価値のようなものだ。"だそうだ。
「失われたもの」を描いた作品といえば『ノルウェイの森』が連想される。テーマも共通している。昔の恋人。若き日の性。セックス。
村上春樹はこういったものをシンプルかつストレートに描く。身も蓋もない、と言ってもいいほど率直に。
そこにははっきりと男性的な欲望が描かれている。もしもコレを女性が読んだら下品に感じるのかもしれない。この男セックスしたいだけちゃうんか?と。この小説に僕が共感できるのも、僕が男だからかもしれない。
でもねぇ、やっぱり多くの男はロマンを持つんですよ。セックスとかロックとかに。憧れるんですよ。で、多くの場合憧れは挫折するんです。そしていろんなものを喪失する。それが青春なんです。うん。
挫折や喪失は、その人のその後に大きく影響する。大げさに言えば人生を変える。でも、多くの場合失敗や挫折は人の記憶に前景化してこない。失敗や挫折は常に抑圧される。簡単に言えば忘れたくても忘れられない、当然話題には上らない、それが青春の挫折や喪失だ。
村上春樹はそういったものをシンプルかつストレートに描く。それは単なるノスタルジーなのかもしれない。
でもねぇ、こういう小説は効くんだよねぇ、体に。グッとくる。それが一番大事(by KAN)なんじゃないかな。
また、この短編には『処女性』がキーワードとして出てくる。女性の貞操観念が喪失を生むのだ。
このあたりの評価は難しいが、物語としての訴求力を生んでいると思う。