読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

思考だだ漏れ読書録

とあるブログ書きの読書記録。

若い読者のための短編小説案内/村上春樹

若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)

若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)


村上春樹がアメリカの大学で行った、日本文学についての講義を元にして書かれた、短編小説の紹介。
村上春樹と言えば、下卑た言い方をすれば「アメリカかぶれ」といったような一般認識がされていると思う。実際彼は、小説を書き始めるまで、英語で書かれた小説を原語で読むことが多く、あまり日本文学を読んでこなかったらしい。
しかし四十歳を過ぎた頃から、日本の小説を手に取るようになったという。四十歳ということは「ねじまき鳥クロニクル」を発表する少し前だ。「ねじまき鳥クロニクル」は村上春樹の作風の大きな分岐点だと思う。日本文学が村上春樹に与えた影響がどんなものであったか、この本を深く読み込むことで浮かび上がってくる、かもしれない。
村上春樹が取り上げる日本文学作品は、主に「第三の新人」と呼ばれる作家群のものだ。(第三の新人 - Wikipedia)どうやら彼らの作品が村上春樹にとって一番馴染むらしい。

もう一つ、村上春樹の特長として、「なんでもかんでもムラカミ文体」にしてしまうという指摘が大塚英志によってされている。『アンダーグラウンド』におけるインタビューは、サリン事件被害者の語りであるにも関わらず、それをひとたび村上春樹が文章化すると、まるで村上春樹の小説の登場人物みたいになってしまうと。
その傾向はこの本にも見られる。村上春樹の手にかかると、丸谷才一吉行淳之介が、村上春樹的世界観に位置づけられる。
そーゆーのがあまり好きじゃない人は、この本を受け付けないかもしれない。でも逆に言えば、そういった留保つきで読めば、この本は充分に刺激的で面白いだろう。

村上春樹は、人間を、その核にある「自我(ego)」、それを包む「自己(self)」、さらにその外側にある「外界」という三つの区分で捉えている。自己は常に、内側にある自我と外側にある外界、それぞれからの圧力に対するせめぎ合いに晒されている、と。そのような認識は、村上春樹の創作上の大きなテーマでもあると自ら語っている。
この本の半分くらいは、上のような村上春樹の小説観で占められていると言っていいだろう。なので、この本の半分くらいは村上春樹ファン向けであると言っていいかもしれない。