rhの読書録

とあるブログ書きの読書記録。

ほんたにちゃん (本人本 3)/本谷有希子

ほんたにちゃん (本人本 3)

ほんたにちゃん (本人本 3)


なぜこの本を手に取ったのかよくよく思い出してみる。確か松丸本舗にある町田康の本棚に並べてあるのを見つけて、惹かれたのだった。タイトルもシンプルで覚えやすかったので、家に帰ってメモしておいたのだ。
「ほんたにちゃん」とは主人公の女性の名前(多分)。東京に出て写真の専門学校に通う19歳。まぁ作者本人を投影した架空の人物と見て間違いないでしょう。私小説の常套だね。
彼女の最大の特徴はそのイタさ。当世風に言えば中二病。本人的にはミステリアスを演出してるつもりが、周りからは暗いヤツとしか思われてないというような、よくあるっちゃあるパターン。
具体的には、家庭環境の不幸を臭わせる(実際は農家で両親健在)、実家の本棚には『幽☆遊☆白書』や『すごいよ!マサルさん』が並んでいるが東京の自宅には『鉄コン筋クリート』や『つげ義春』を置く、あげく『イエスタデイ』をうろ覚えでビートルズを語る等々。思わず「こいつはイテーっ!!邪気眼の匂いがプンプンするぜーっ!!」と叫びたくなってしまう有様。
あまりにも典型的すぎて「これってあるあるネタじゃね?」と思わないでもないが、しかしその奥にある、思春期的自意識の葛藤を、作者はちゃんと見つめている。多分。きっと。
結局のところ、人というものは成長するに連れてと思うようになるわけで、そういう意味で我々は多かれ少なかれ「ほんたにちゃん」であり、もし「他人に気に入られたい」と全く思わない人がいたら、それはそれで別の苦労を抱えることになるだろう。
もちろんただの「痛い自分語り」に終始しているわけじゃない。主人公の痛さや、その他登場人物の「小物」さ加減がこんなにも読んでいて面白おかしいのは、読者に対するサービス精神のなせる業だ。物語中盤ですっかり自尊心を傷つけられた主人公が挽回に挑む流れは痛快。思わず唸ってしまったよ。これだけエンターテイメント性のある作品を書く一方で芥川賞も狙えるなんてねぇ。いや、他の作品読んだこと無いけどさ。
若い頃「自分は特別だ」と思っていた人、あるいは今も思っている人にオススメの本、かもしれない。