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思考だだ漏れ読書録

とあるブログ書きの読書記録。

「社会的うつ病」の治し方―人間関係をどう見直すか―/斎藤環

「社会的うつ病」の治し方―人間関係をどう見直すか (新潮選書)

「社会的うつ病」の治し方―人間関係をどう見直すか (新潮選書)


精神科医・斎藤環が、近年急激に増加している「社会的うつ病」について、医師との関わり方や患者周囲の家族の心得、さらに患者にとっての人間関係の大切さなどを書いた本。
そもそも「社会的うつ病」とは何か。「その特徴は、心の葛藤が浅く、深刻味に乏しく、うつ病に必須とされる身体症状も比較的軽い」、「30代を中心に増加しつつある軽症のうつ病」だそうだ。
「仕事中はうつになるくせに、遊ぶときだけは元気になる」などと揶揄されることもあり、かつての「神経質、きちょうめん、完璧主義、生真面目」な人がかかりやすい古典的なうつ病患者とは異なり、比較的症状は軽く、しかしなかなか治らないという特徴がある。
うつ病、というか心の病全般が社会問題になっている現代。厚生労働省の調査によるとうつ病等の気分障害の患者数は2008年には104.1万人に達している。
特に企業におけるうつ病患者の増加は深刻で、社員のメンタルヘルスの管理は今や常識になっている。心の病による経済的な損失もバカにならない。

で、この本。単純にうつ病の患者や家族・配偶者がうつとどのように向き合えばいいかを書いた本として「役に立ち」そう。
例えば、患者の家族が患者を叱咤激励するのは基本的に良くないが、かといって放置すればいいというわけではない。まずは患者が安心して治療に専念できるように受け入れ、耳を傾け、一方的にならないような関係性を作ることが大事。
というような、現在の精神医学から見て一般的なことが書かれている(と思う)。そりゃそうだ。著者は臨床医だから。

また、この本が画期的なのはうつ病の治療に「<人間関係>と<活動>の積極的活用を説」いているところ。著者はこれを「人薬」と呼ぶが、専門であるひきこもりの臨床経験がうつ病の治療に生かせるのではないかというアイデアでこの本を書いたという。
本来うつ病の対処法と言えば「薬飲んで休む」というのが一般的だった。しかし現代増えている「新しいタイプのうつ病」に対してこの方法が本当に有効なのか、むしろ社会的に孤立することで症状が悪化してしまうのではないか、というのがこの本の主張。
むろん「病気でもなんでもいいから会社に行け」と言っているわけではない。
ひきこもりが長期化する原因として著者は、「社会からの孤立が自信の喪失に繋がり、自信の喪失が更に孤立を深めてしまう」という循環が起こっているという指摘をしている。うつ病患者にもこれと同じような状況が起こりうるという。
そこで打開策として考えられるのが「<人間関係>と<活動>」である。著者はコフートの理論を援用し、健全な自己愛の発達には「他者」の存在が欠かせないと説く。それは文字通りの「他人」であったり、「他者性」を発揮してくれる物、作品だったりする。
その具体的な方法として、患者が病院の場所を使って簡単な作業をする一種の職業訓練をする「リワークプログラム」や、声楽のレッスンを通じて治療を行う「声楽療法」などを挙げている。また、運用法によっては関係性を奪ってしまいかねない社会制度である「ベーシックインカム(BI)」にも触れ、病気や失業などで労働から排除されている人達に適度の労働を提供する「アクティべーション」という考え方の可能性を示している。

個人的に興味深かったのは、うつ病患者が対人交流の場を得る方法について著者の経験から有意義だった方法を挙げた所。
家族や以前からの友人との関係を維持すること、病院のデイケアサービスやうつ病患者の自助グループを利用することは当然として、図書館に通う、スターバックスのカフェで「人間観察」、釣り堀・ゲームセンター・バイクショップで仲間関係が生まれる、サークル・ファンクラブ・カルチャーセンターやヨガ教室・自動車教習所・教会・ボランティア活動、さらに病院への入院など。「<人間関係>と<活動>」の可能性はこんなにも開かれている。
患者に治療的変化を起こすために(あくまで改善とは限らないが)必要なのは、

  1. 生活習慣を変える
  2. 環境を変える
  3. 対人関係を変える

ことだという。このあたりは健康な人となんら変わらないと言えるだろう。
うつ病当事者でなくても、「心の健康」という問題を考える上での示唆に富んだ一冊。