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思考だだ漏れ読書録

とあるブログ書きの読書記録。

アフターダーク/村上春樹

アフターダーク

アフターダーク


 主な舞台は深夜の都会。ファミレスで一夜を明かそうとする少女。地下室でジャズを練習する人々。ラブホテルで働く女性達。中国マフィアとその下で売春する中国人の少女。そして自分の部屋でこんこんと眠り続ける女性。
 一読して感じるのは、タイトルの通り様々な「闇」が描かれているということ。都会の闇、心の闇。村上春樹は一貫してそれらの闇を描いてきた。
 しかし一口に闇と言っても、それらの質は作品を重ねる毎に少しずつ変化している。そらそーだ。全く同じ闇を描き続けるだけなら、わざわざ新しい作品を作る必要は無くなってしまう。
 登場人物たちは、「こちら側」と「あちら側」に分けられると思う。マリ・高橋・エリ・カオル・白川はこちら側で、中国人の少女・マフィア風の男・顔のない男という感じだろうか。コオロギやコムギは脇役の印象が強い。
 マリは高橋とカオルと中国人の少女に出会い、高橋はマリに出会い、エリは顔のない男に出会い、カオルは中国人の少女とマフィア風の男に出会う。白川は作中ではほぼ誰とも出会わない。
 ちょっと考えると「あちら側」が闇であり、「こちら側」が闇と出会う、という筋書きに見える。しかし高橋が裁判を傍聴した際の経験を振り返って語った「あちら側とこちら側を隔てる壁なんてすぐに崩れてしまうかもしれない」という言葉が効いている。読者は小説に登場するものごとをそう簡単に二分できなくなるという仕組みが働いている。
 「あちら側とこちら側を隔てる壁なんてすぐに崩れてしまうかもしれない」というような趣旨の発言を、村上春樹は「約束された場所で」のあとがきに書いていたと思う。多分間違ってたらごめんなさい。あるいはそういった思いが作者にこの作品を書かせたのかもしれない。
 それからちょっと話を戻すが、作中人物たちの出会い。誰が誰と出会い、誰と出会わなかったかという関係性が、この小説の推進力になっている。こう簡単に言い切れることでもないと思うが、一般的にはエンタメ小説的な小説技法だと感じる。そういった成分を作者は積極的に取り入れているように感じる。
 話が少々作者論に傾きすぎた。作品そのものももちろん良い。「深夜から夜明けまで」という風に物語が時間で区切られていることで、起承転結の起と結がところどころで描かれないまま終わっており、それが読んだ後の余韻のようなものをもたらしていると思う。