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思考だだ漏れ読書録

とあるブログ書きの読書記録。

蝉丸Pのつれづれ仏教講座/蝉丸P

蝉丸Pのつれづれ仏教講座

蝉丸Pのつれづれ仏教講座


 お坊さんは偉い、とつくづく思う。
 現代社会でフツーに生きる我々にとって、お坊さんという職業は、ほぼ「お経を唱える人」と同義である。それが良いことか悪いことかは別として。
 お経を読む。死んだ人の前で。しかも、出席者のほとんどは、お経を読む意味さえ理解していない。
 お坊さんは、法事のときなどには、法話をする。らしい。僕はお坊さんの法話を聴いたことが無い。そう言えば、中学の修学旅行のときに、お坊さんの講話を聞いたような記憶がある。「させていただく」という気持ちが大切だ、というような話だったと思う。
 法話、というのは、要は仏教に関する講話・講演のようなものなのだろう。当然、それ相応のトークスキルが必要とされるに違いない。
 しかも、お坊さんは宗教史・仏教史に精通している。人によるらしいが。今回は「らしい」が多い。それくらい、現代においてお坊さんとふれあう機会は少ない、のか、単に僕の社会経験が不足しているだけなのかはわからないが。
 つまり、お坊さんは、歴史家・宗教史家的な側面も備えているというわけである。
 そんなハイスペックな存在でありながら、どうも現代社会では軽んじられる傾向にある。というか、本書中の言葉を借りれば、「江戸時代的な生活を期待されている」というフシがあり、ぶっちゃけて言えば古くさい存在だと思われている。
 僕はそれは非常にもったいないことだと思う。
 お坊さんの知見が現代社会の問題に役立つ、みたいな功利的なことを言うのはあまり好きではないが、もっと学ぶべきことがあるのは間違いない。


 で、本書の話。
 この本の著者は、お坊さん、というか現役僧侶であり、「僧職系男子」としてニコニコ動画を中心に人気の蝉丸P。客観的に見れば完全なニコ厨であるところの僕だが、蝉丸Pがアップロードした「仏具で演奏」動画はいくつか目にしたものがあったものの、その活動全体をフォローしていた訳ではなかった。
 仏具で演奏とは、ものすごくざっくり言うと、楽曲に合わせて木魚や太鼓を叩いて演奏するという動画。仏教の教義に照らしても、特に不謹慎ということはないそうだ。
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 というわけで、僕が本書の存在を知ったのは、ネット経由ではなく、書店で偶然目に留まったのがきっかけ。買ってでも読みたいな、と思ったのは、立ち読みしてみて、そのネットネタ・ゲームネタへの精通ぶりに感服したから、というのもあるが、特に心を惹かれたのは、たまたま開いたページに載っていた、次の一節を読んだから。

 今風に言えば、心のトレーニングをしっかりしていただくという話でして、身体を使わないと衰えていくのと同じように、心というものもちゃんと意識して、動かしていかないと、どんどん鈍くなっていきます。

 心をちゃんと鍛えておかないと、いざというときに誰かを支えてあげたり、他人を思いやったりすることができませんから、日々の積み重ねが大事というのはダイエットや運動に限った話じゃございません。

 これを読んで、なんだかエラソーな言い方だけど、「あぁ、わかってるなぁ」と思って、早速買って読み始めたのである。


 実際に頭から読んでみると、結構読み応えがあるというか、内容がかなり多岐にわたっている。
 具体的な内容は、仏僧としての日常生活、僧侶に対するよくある疑問、海外における仏教の現状、さらには仏教の歴史、などなど。軽い仏教入門的な本だと思って読み始めると、結構読むのに苦労するかもしれない。
 文体自体はかなりネットユーザー寄りというか、ニコニコユーザー寄りにはなっているものの、この分量・文量では、今時のネット世代には少々重たすぎるのではないかな、などと余計な心配をしてしまったり。
 全三章構成だが、各章ごとに一冊ずつに分け、それぞれもうちょっとボリュームを増やして、計三冊で出版してもよかったんじゃあないかと思う。本書が初出版という事情もあるのだろうけれど。

 しかし内容そのものは、極めてしっかりしており、バランス感覚があって、著者の見聞の広さが伺える。それは巻末の参考書籍を見てもわかる。内田樹京極夏彦中島らもの名前があるあたり、かなりの読書家と見た。
 おそらく蝉丸Pは、良い意味でオタク気質であり、気になることは何でも自分で調べてしまうのタイプなのだろう。そんな感じがした。
 ただ少し残念だったのは、文章表現や構成の面で少々気になる部分があったりなかったり。著者が本業の文筆家で無いのは仕方ないとして、もうちょっと校正などの編集者のレベルでなんとかできなかったのか、と思う。発行がエンターブレインなのを見ると、編集者が文芸畑の人じゃあないからかなぁ、などと邪推してしまう。

 加えて、本書の立ち位置は、かなりの現実指向。
 「宗教とは…」とか、「正しい行いとは…」みたいな抽象的・理想論的な話よりは、「西洋人がロマンを求めて出家してくるのはいいが、やたらとオレルールを主張してきて困る(意訳)」みたいな、ある意味で生々しい話が多く出てくる。
 「現代の悩みは仏教で解決」みたいな本がやたらと多い昨今、そういった、ある意味で生々しい話が中心な本書は、仏教関連の書籍の中でもかなり希少なのではないかと思う。いいぞもっとやれ。

 総じて言えば、ネット世代の仏教入門に最適であると言えるのではなかろうか。かくいう自分もネット世代であり、仏教には本で読んだりして触れただけで、直接的な関係はまるで無いまま暮らしてきたのだが、今後そういった機会があれば、本書で得た知識を活用していけたらなぁ、などと思っている。