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思考だだ漏れ読書録

とあるブログ書きの読書記録。

小説のような紀行文(遠い太鼓 / 村上春樹)

 読み始める前は、『遠い太鼓』というタイトルの旅行記、というので、なんとなーくアウトドアーな内容なのかな、と思い込んでいたが、そうでもなかった。普通に現地のホテルに泊まったりアパートを借りたりしている。

 主に滞在しているのはギリシャとイタリア。フィンランドとオーストリアにも行っている。

 ギリシャに関しては、観光メインの国なんだな、という程度の印象だったが、イタリアについての描写が、なかなかどうしてヒドイ。描写というか、実際に村上春樹自身もヒドイ目に遭っているらしいので、一方的な悪口というわけでもないのが、ますますアレである。

 いわく、郵便制度がムチャクチャでものがマトモに届かない。イタリア車は故障しやすい。ローマでは窃盗が横行しており、日夜激しい駐車スペース争いが繰り広げられている。等々。ネットで調べた限り、この辺の事情は、今でも変わっていないようである。

 ただ彼も書いている通り、どんな国にもそれぞれの問題がある。それは日本でもイタリアでも変わらない。遅れているとか進んでいるとか言ってもしょうがないのだろう。

 今や、誰でもスマホなりを使えば写真も動画も撮り放題の時代だ。そんな中、文章で書かれた旅行記を読むということ自体、なんだか遠回りをしているような不思議な感覚があった。

 しかし、村上春樹が書くと、現実の海外滞在記なのに、まるで小説みたいになってしまって、それが面白い。旅先で出会った人物も、小説の登場人物みたいである。

 特に出色なのは、ギリシャ人のギリシャ語の会話を、想像で補っている場面。フィクション化の最たるものである。でもすごくいい。

 ページの間から漂ってくるのは、海の匂い、魚市場のざわめき、夏の日差し、島の嵐、荒れた道、日当たりがイマイチな半地下のアパート、自動車整備士の親子、僕が名前も知らない演奏家のクラシックコンサート、定年が待ち遠しいレジデンス管理人のオッサン、壊れたクローゼットを執拗に石で叩くホテル清掃員のババア。最後のやつもホントだからね。

 要するに名作。長いのでじっくり読むのがオススメ。

遠い太鼓 (講談社文庫)

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