思考だだ漏れ読書録

とあるブログ書きの読書記録。

中庸を知らないアメリカンスポーツの世界(アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲 / 町山智浩)

 町山智浩。危険な男である。

 なぜ危険なのかというと、話すことも書くものもどれもが面白過ぎるからである。

 TBSラジオ『たまむすび』には毎週火曜に町山智浩の映画紹介コーナーがある。毎週Podcastで聞いているのだが、これがもうむちゃくちゃに面白い。

 どのくらい面白いのかというと、古今東西の映画や映画監督や俳優についての豊富な知識と、下ネタ・下世話ネタを織り交ぜた語り口で、実際にその映画を見ていなくても、まるで見たような感じになり、あまつさえその映画について誰かに話したくなってしまう。それくらい面白い。

 で、その町山智浩が、アメリカにおけるスポーツ界隈にまつわるニュースを紹介するのが、本書『アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲』である。

アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲 (集英社文庫)

アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲 (集英社文庫)

 海外の実話を紹介する、という体裁は、なんだか『世界まる見え!テレビ特捜部』に似ているな、と感じた。Amazonのレビューにも同様の指摘があった。

 しかしあの町山智浩が書いているのだから一筋縄ではいかない。まるで一本の映画のような起承転結を持った成功譚・失敗譚を短いエピソードにまとめて読者の興味をそそりつつ、アメリカスポーツ界の歪みを通じてアメリカという国家の矛盾をあぶり出すという、一流の批評家並みの仕事を成し遂げている。その様は、えげつない、と形容したくなるほどである。

 一方で、その起承転結の面白さは、一歩間違えればゴシップ的なの面白さになってしまう恐れがあり、それではスポーツ新聞などで読者の興味を惹起するためにあることないこと書き散らす三文記者と同じになってしまう。

 町山智浩という人には、人々が興味を持つネタを嗅ぎ分ける嗅覚のようなものが備わっているのではないか、とこの本を読んで感じた。あるいはそれは数多くの映画を見続けることを通して涵養した感性なのかもしれない。

 それは素晴らしい能力であるとともに、使いようによっては危険なことにもなりうる。

 以上の理由で、半歩引いた感じで彼が話したり書いたりしているものを聞いたり読んだりしている。のだが、やっぱり面白くて引き込まれてしまう。あなおそろし。でも楽し。


 この本の話を全然していなかった。

 アメリカのスポーツ=世界一、という漠然としたイメージを日本人は持っているかもしれないが、華やかなものの裏にはたいてい影がある。矛盾もある。大リーガーがステロイドまみれだとか、日本でも活躍したプロレスラーのクリス・ベノワが妻子と無理心中したことだとか、学生のフットボールで脳に傷害を受ける子どもが多いことだとか。

 同時に、アメリカンスポーツは奇人・変人の受け皿にもなっている。アメリカの海岸を車で移動しながら子どもにサーフィンだけをやらせ続けた男とか。大リーグの試合を巡ってひたすらボールを集め続ける男とか。

 いい話もあれば、悪い話もあるが、読んでいて思うのは、なぜにアメリカ人はこんなに極端なのか、ということに尽きる。もうちょっと、中庸とか、いい塩梅みたいなやり方ができんのか、と。まぁ、たぶん出来ないんだろう。

 それはなんだか民主主義を全世界に広めようとしているアメリカの外交政策にも通じているように思える。なんとかならないのかなぁ。まぁ、ならないんだろう。