rhの読書録

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弱いつながり 検索ワードを探す旅 / 東浩紀

弱いつながり 検索ワードを探す旅

弱いつながり 検索ワードを探す旅

 インターネットというものが発達して以降、人類の知識は全てネット上にアーカイブされ、知りたいことはいつでも知ることができるようになった……というような感覚が、僕らには多かれ少なかれあると思う。

 そしてその感覚は、「もう真新しいことなんて無いんじゃないの?」的な閉塞感に繋がっているように思う。

 しかし実際のところ、ネット上に存在するものは全て「誰かがアップロードしたもの」だ。

 「誰もアップロードしないもの」を知るためには、とにかく旅に出よ、と筆者の東浩紀は言う。


 ネットというものはその性質上、自分の興味がある分野についてはいくらでも詳しくなることができるが、そもそも自分が全く知らないものを知る「きっかけ」としての機能は、実に弱い。

 例えばオリンピックのロゴが何に似ているだとかいうことは、「画像で画像を検索する」というGoogleの機能を使えば誰でも簡単に調べることが出来てしまうのかもしれない。しかし「そもそもオリンピックにロゴが登場したのはいつからなのか」とか「きっかけはなんだったのか」とか、そういうことについて詳しく知ることは難しい。

 なぜ難しいかといえばそういう情報がネット上に無いからで、ではなぜネット上に存在しないかというと、そういうことに興味を持っている人がいないからだろう。

 旅に出れば、求めるものが変わる。求めるものが変われば、検索ワードが変わる。検索ワードが変われば、見える世界が変わってくる。Googleストリートビューを見るだけでは、そのような変化は訪れない。


 今僕がプレイしているテレビゲーム「メタルギアソリッドV(ファイブ)」に「キャンプオメガ」という架空の軍事基地が登場する。

 「キャンプオメガ」は、見る人が見れば「グアンタナモ収容所」をモデルにしていることが一目でわかるのだが、自分はこのゲームをプレイするまでは、グアンタナモのことも、そこがキューバにある米軍の土地であることも、各国から集めた要人を拷問するための施設であることも、全く知らなかった。

 このように、知識というものには、あらかじめ「こういうことを勉強しよう」と思って得るものと、「欲望に従って行動することで、副次的に得られるもの」の二種類がある。そして、人生を豊かにしてくれるのは、後者のような、思いがけない、予想外の知識のほうなのではないかと思う。多分。

 同じ場所で同じ生活をしていると、知りたいと思うこと、欲望することは固定化されてしまう。それを流動化するために人は本を読んだりゲームをやったりするわけだが、もっとずっと大幅に、かつ意外と手軽に欲望を変えてしまう方法が、旅に出ることなのだろう。


 他にも、現代のネットにおける著名人の活動は、ひたすら露出を増やすことが求められる体力勝負の消耗戦になっており、どぶ板選挙にも似た古臭いものに堕してしまっている、という指摘などは、かなり頷ける。

 内容はエッセイ調で読みやすく、難しい哲学用語などはほとんど出てこない。ただ本書には、筆者が推進している「福島第一原発観光地化計画」を理論的に(あるいは情緒的に?)補強するための本、という側面もあるので、そのへんの冗長さがちょっと気になる点ではある。

 それでも、現代のインターネットに閉塞感を感じている人には、一度は読んでみて欲しい本ではある。使う人のリアルが変われば、インターネットが見せる姿もまた変わる、という、当たり前だが忘れがちなことをもう一度確認できるだろう。