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思考だだ漏れ読書録

とあるブログ書きの読書記録。

ほんのり!どんぱっち / 澤井啓夫

読書メモ マンガ さ:澤井啓夫

ほんのり!どんぱっち (ジャンプコミックスDIGITAL)

ほんのり!どんぱっち (ジャンプコミックスDIGITAL)

 『ボボボーボ・ボーボボ』の澤井啓夫が描く、『ボーボボ』のパラレルワールドを舞台とした、日常系ギャグ漫画。

 ボボボーボ・ボーボボは大好きなギャグ漫画のひとつだった。僕がギャグ漫画好きになったのは、主にボーボボと『魔法陣グルグル』と『魁!クロマティ高校』と『泣くようぐいす』の影響である。結構多い。

 当時連載されていた週刊少年ジャンプの中でも、ボーボボの画風はお世辞にも上手いとは言えないものだった。特に連載初期は、ありていに言って子どもの落書きレベルに近かったと言っていいだろう。もっともこれは当時作者が若かったこともあるし、裏を返せば、その画力でも連載開始にこぎつけられるほどの卓越したギャグセンスを有していたことの証拠でもある。

 『ボーボボ』の連載終了後しばらくは、短期連載や読み切りしか発表していなかったようだが、2011年に最強ジャンプで新作『ふわり!どんぱっち』の連載を開始。その画力は『ボーボボ』と比べると大幅に上達しており、そのあまりの進化がネット上でもちょっとした話題になった。

ふわり!どんぱっち 1 (ジャンプコミックス)

ふわり!どんぱっち 1 (ジャンプコミックス)

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 『ふわり!』連載初期は『ケロロ軍曹』風の居候ドタバタコメディだったのが、だんだん可愛い女の子が出てくる日常萌え系ギャグへとシフトしていき、終盤には『よつばと!』風のまったり日常漫画に。画風のみならず、作風もどんどん変化して行ったのである。

 そして単行本が3巻出たところで、タイトルを『ほんのり!どんぱっち』に変え、連載場所も「ジャンプ+」に移行。

 ほんのり!どんぱっち | 少年ジャンプ+

 『ほんのり!』初期はより『よつばと!』色が強かったが、徐々にセリフの多い、ストーリー系のギャグ漫画へと変遷していった。そして今回読んだのがその単行本。一巻のみの短期連載の形となっている。

 実を言うと自分は、『ふわり!』はリアルタイムで読んでいなかった。というよりも、ボボボーボ・ボーボボが『真説ボボボーボ・ボーボボ』になったあたりから、どうもギャグが失速しているように感じて読むのをやめていた。もちろん、単に自分が年をとって対象年齢から外れただけだった可能性もある。しかし少なくとも『ボーボボ』の頃のギャグは、今読んでも間違いなく面白い。

 そんな自分が『ほんのり!』を読もうと思ったのは、つい先日、なんとなく思い立ってボーボボについて調べたところ、結末が衝撃的な感じになっているということを知ったから。上述の『ふわり!』での作風の変化などについて知ったのもそのときが初めてだったりする。


 というのが僕と『ボーボボ』との今日までのあらまし。やっと本題である『ほんのり!』の話に入れる。

 『ふわり!どんぱっち』の舞台は現代日本風のふわり町で、『ボーボボ』の世界のパラレルワールドという設定だった。それがタイトルを『ほんのり!』に変えるにあたり、さらに世界観をリセット。ふわり町によく似た、また別のパラレルワールドにあるふわり町という設定になった(コミックス話間ページの作者解説より)。

 なのでヒロインのビュティは、『ボーボボ』のビュティとは見た目が似ているが別のキャラクター。性格的にもツッコミ役ではなく、マイペースだが包容力のある、ふんわり感のあるキャラとなっている。

 一方、主役である首領パッチは、ビュティの家にペットとして居候している。なぜ彼がビュティの家に来たのかは、作中で語られる。

 前半の数話はビュティと首領パッチの二人を中心に、へっぽこ丸(こちらも『ほんのり!』世界の住人)やビュティの友人であるパンコやリンとの、なにげない日常ギャグが淡々と描かれる。

 『ふわり!』の頃はまだデフォルメが効いていた作者の画風は、本書でより写実的にシフト。古本屋の値札シールやカラオケマシンの採点画面までがフォトリアル。トレースを多用していることは間違いないが、そのリアルな世界に違和感なく首領パッチを溶けこませることができている。

 あのビュティの指先一本一本や、耳のヒダや、ジーンズに包まれたお尻が、まるでそこにあるかのように写実的に描かれているというだけでも、あの頃の『ボーボボ』ファンにとっては感慨深いものがあるはずだ。なんだか着眼点がフェチっぽくなってしまった。


 そんな日常の中に、『ボーボボ』の世界である300X年から首領パッチを追って破天荒がやってきたことで、少しずつストーリーが展開・転回しだす。

 なぜ首領パッチは、世界線を超えてこの世界にやってきたのか? 破天荒の回想シーン。

首領パッチ「でも悪いな 今日でお別れだ」「もう行くわ」
破天荒「え?」「ちょっと待ってください…」「行くってどこへ? 」「な…なぜです? この戦いの謎も この先の未来も まだ何も答えは出てないんですよ」
首領パッチ「オーバーペースで走りすぎたからな ちょい休憩だ」

 『ボーボボ』の世界での戦いに疲れ、ふわり町へやってきた首領パッチの姿は、どこか作者の姿とダブって見える。

首領パッチ「破天荒 なんで俺がここまで全戦全勝なんでも無敵にやってこられたかわかるか?」

首領パッチ「ノリと勢いよ! ドンと構えて 世の常識とやらの逆か上を3段ジャンプで飛び越える」「単純なようで真理 何事も為せば成ると思う強い気持ち ぶれない心が重要ってわけだ」

 『ボーボボ』は、ノリと勢いのハイテンションナンセンスギャグで一世を風靡した漫画だった。


 その後、同じく300X年から黄河文明、インダス文明、メソポタミア文明(知らない人のために説明しておくが、いずれもキャラクター名である)の三人もふわり町にやってきていたことがわかり、さらに話が動き始めるのか……というところで、300X年のボーボボが現れ、ストーリーは唐突に終わりを迎える。ボーボボと首領パッチが河原で語り合うシーンで。

ボーボボ「で 首領パッチ お前の方こそもう答えは出たのか? バカなりに考えて悩んでハジケきれなくなってたんだろ」「こっちの世界に居場所なり新たな可能性なり発見できたのかよ」
首領パッチ「いやいや そーゆーのはよぉ とっくに解決してんのよ オレん中でも」「そこじゃねぇのよ 今オレが思うところは」

 首領パッチ=作者だとすると、「こっちの世界」=「日常系ギャグ漫画」であるという風に読める。果たして作者は「こっちの世界」に居場所を見出すことができたのだろうか。直後のコマに描かれた首領パッチの瞳は、どこまでもメランコリックである。

首領パッチ「…」「ここ ビュティがいんだよ」
ボーボボ「…そうか」
首領パッチ「へっぽこ丸のヤツも…」

 ビュティとへっぽこ丸は、いずれも「子ども=守り育むべきもの」だ。新しい世界で、首領パッチは彼らを見つけた。

ボーボボ「楽しいならよかったじゃねぇか」「ここがお前の第2の故郷になったってことだろ」
首領パッチ「そうだな」

 ラスト手前のコマの首領パッチの顔は、うってかわって爽やかだ。


 このラストの解釈として、ネット上では「300X年のビュティとへっぽこ丸は死亡した」という説が流れているが、僕にとっては、新たな境地を見出した作者の決意表明にも見える。

 画力の向上については言うまでもないが、『ふわり!』から『ほんのり!』に至るまでの作風の変遷を見ているだけでも、作者がいかに努力家であるかが感じられる。先行する作品に似通っていることは確かだが、逆に言えば、それらの表現を自己流の表現へと昇華できるほど、先行する作品を徹底的に研究したとも言えるのではないだろうか。『ボーボボ』の頃はただのハイテンションギャグだと思っていたネタも、今考えれば、全て同じような努力によって産み出されたものだったのかもしれない。

 『ほんのり!』後半において作者は、ようやく自分にしっくりくる作風を見つけたのではないか。少なくとも自分にとっては、かなり「こなれて」いると感じた。「ボーボボ」ファンでない人が読んでも面白いくらいに。

 もちろん『ボーボボ』ファンが楽しめる要素も満載。ところ天の助が2ページ丸々喋るシーンがある他、田楽マンが2コマほど登場。さらにサービスマンやカンチョー君といったキャラまでカメオ出演。現在Amazonレビューが0件だが、もっと話題になっていいマンガだと思う。

 試行錯誤を経て新境地に辿り着いた作者は、次にどんな作品を描くのだろうか。今から楽しみで仕方ない。ボーボボを軽く上回るような名作を描いてくれそうな予感が、割と本気でしている。

 ちなみに現在、最初の3話はジャンプ+で読めるが、個人的には破天荒が出てくる7話あたりから面白くなってくると思うので、ぜひ買って読んでいただきたい。

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