- 作者: 岩井寛
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1986/08/19
- メディア: 新書
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森田療法とは、大雑把に言えば、フロイトの精神分析と古典仏教の理論をミックスした精神療法である。
ただでさえ、精神分析の非科学性が指摘されて久しい昨今、それに輪をかけたようなものだ。
じゃあ無意味なのか、無価値なのか。僕はそうは思わない。
その理論がどれだけの妥当性を持っているかはわからないけれど、治療が可能であったという事実は揺るがないわけで、何らかの癒しのメカニズムが存在することは間違いない。結果論かもしれないけれど。
そしてこの著作が、作者の最晩年のものであり、病魔で視力を失いながらも口述筆記で完成させた、言わば命を賭した書であるということ。死を前にしてなお前進せんとするその姿勢が、氏が森田療法を通じて世に伝えようとした「あるべき生き方」と重なるということ。
ではそのあるべき生き方とはなんであろうか。簡潔に言えば、「自分の中のとらわれをあるがままにしておいて、目的本位の行動をとる」ということだ。
とらわれとは、例えば人前に出るときの緊張。森田療法では、その緊張を拒否しようとすることで逆に症状が強まってしまうと考える。そこで、その緊張をあるがままにしておき、人前に出るという目的本位の行動をとればよい、と氏は説く。
果たしてそれは、単なる人生訓の一種に過ぎないようにも聞こえる。本書の理論では、人間の発達を、学校生活を前提として論じている部分があり、その点、精神分析と比較しても弱いのではないかと感じる部分があった。
しかし、それでも僕はそこに幾ばくかの真実を見るのである。それは、僕もまた日々「とらわれ」にとらわれる人間であり、「とらわれ」と向き合って生きる必要がある、という一定程度の真実に起因するのではないかと思う。