rhの読書録

読んだ本の感想など

燃えつきた地図/安部公房

燃えつきた地図 (新潮文庫)

燃えつきた地図 (新潮文庫)


安部公房の作品で一番好きなのは「壁」。読むと不安になる小説ナンバーワンだから。じっくりと、真綿で首を締められるように、追い詰められていく主人公の不安がぞくぞくっと伝わってくる。
壁 (新潮文庫)

壁 (新潮文庫)


で、「燃えつきた地図」。作品としては探偵小説であって、「壁」のような妄想・幻想世界ではなく、現実の都会を舞台としたストーリー。

でもやっぱり不安。主人公の探偵が踏み入れた団地が不安。依頼人の、失踪した男の妻は、幻覚と遊ぶタイプの人で不安定。さらに依頼人の弟が、探偵の周囲を不穏に動く。

一般的な読み方だと、この作品は「都会に潜む恐怖」とか、今で言う「匿名社会」を描いたとも読める。

また、安部公房という人は、自分の夢(寝て見るやつ)を記録、研究していたらしい。夢について書いたエッセイも書いていて、そのエッセイと同じエピソードがこの作品にも登場している。

そういった点から、安部公房の作品は、彼が見た悪夢のコラージュ的なものである、という読み方も出来なくはない。何しろ単純な探偵小説にしては、細部の描写が多い。酒場でゴキブリを焼くくだりとかね。

僕のような「悪夢」を読みたがっている読者にとっては、この作品の「現実にありふれた場面」の描写は少々くどかった。「いかんともしがたい無力感」を感じさせるような独特の文体は生きているのだけれど。

ところで安部公房の全集は、装丁がカフカのそれにそっくりだけど、やっぱり当人も意識してるところがあったのだろうか。

あと、この作品、主演・勝新太郎、音楽・武満徹で映画化されてるらしい。へええええ。