rhの読書録

とあるブログ書きの読書記録。

エロ事師たち/野坂昭如

エロ事師たち (新潮文庫)

エロ事師たち (新潮文庫)


色々と奥の深い作品。
この小説は、野坂昭如の趣味であるブルーフィルム(今で言うAV)収集にまつわる体験を元に書かれたという。
主人公の「スブやん」はブルーフィルムの撮影・販売、売春や結婚詐欺まがいの斡旋などで生計を立てる。
まぁその意味でスブやんとその仲間たちは一種の犯罪者集団であると言えるわけで、その意味でこの小説は裏社会の闇を描いた風俗小説であるとも言える。
しかしスブやんは、ただ単に金目的で犯罪行為に手を染めているわけではなく、顧客のエロに対する満足、すなわちカスタマーサティスファクションを目指してエロを生業としているのである。もっとも、商売人が口にする「やりがい」ほど当てにならない者はなく、その点はスブやんも例外ではないのだけれど。
ともあれ、彼が苦心惨憺の挙句エロを売り歩く様はユーモア及びアイロニーに満ちていて、喜劇小説としても優れている。
そしてこの小説は単に面白いだけに留まらない。
かつて野坂昭如のように関西弁を文学に持ち込んだものはいなかった。いなかったらしい。僕はよく知らないがそうらしい。
僕は関東圏の人間なのでいきなり「こらぐつわるい」と言われてもなんのこっちゃ?であるが、まぁ大体は推測によって読める。
この関西弁による饒舌が恐ろしくテンポの良い文章を可能にしている。太宰治とは別種の饒舌だと思う。
これは町田康がリスペクトするわけだ。以前町田康川上未映子が、野坂昭如についての対談をしていたらしい。行けばよかった。
asahi.com(朝日新聞社):大阪弁に独自の世界観込めて 町田康さん・川上未映子さん対談 - ひと・流行・話題 - BOOK
町田康×川上未映子トークショー 無垢にして攻撃的な― 野坂作品の魅力、そして、時代に刻まれた行動の軌跡 :: 俺様blog|yaplog!(ヤプログ!)byGMO
最後に、この作品のメインテーマ。それはエロ、すなわち性愛である。
スブやんが性愛の究極系を乱交の中に見ていたが、その主旨は解説を書く澁澤龍彦快楽主義の哲学 (文春文庫)で述べていた意見と合致している。
だが、野坂昭如が描きたかったのは究極の性愛ではなく、性愛は欠如によって可能となる、という性愛の本質だったのだろう。(と、松岡正剛は書いている。)
多分フロイトやラカンが言っていることに通ずるだろう。まぁ簡単にいえば男がパンチラに興奮するのは、パンツのせいではない。パンツが隠されていることが重要なのだ。
理想の乱交を作り上げたスブやんが語り手を辞め、主体を無くしてしまうというあたり、精神分析的に見てもなかなか面白いんじゃなかろうかと思うが、まぁ僕は専門家ではないので。
こんなに切り口の多い小説はなかなか無い。柄谷行人らが日本文学50選に挙げていたのも頷ける。
必読書150のリスト ついでに 東大教師が新入生にすすめる100冊:品川心療内科-日録-SMAPG-Panalion:So-netブログ
あと、このブログもなかなか参考になると思う。
小説家志望の休暇 野坂昭如の『エロ事師たち』を読んで