rhの読書録

読んだ本の感想など

文学部唯野教授/筒井康隆

文学部唯野教授 (岩波現代文庫―文芸)

文学部唯野教授 (岩波現代文庫―文芸)


 
主人公は早治大学の(架空)英文学部教授・唯野仁。
饒舌がアイデンティティーの唯野教授の前に、様々な人物が現れ、様々なアクシデントを持ちかけてくる。親友の牧口は、留学費を昇進に必要な資金にするため日本に帰ってきており、唯野は隠蔽工作に四苦八苦。講師の座を欲しがる助手の蟇目は、上司でエイズ疑惑のある斎木教授となにやら怪しい関係。万事がそんな調子で、唯野は幼稚な教授らの権力闘争に振り回される。
そんなある日、講義を終えた唯野の元に一人の女生徒が。なんと彼女は唯野の秘密を握っていた!!
というストーリー。
この小説のウリの一つは、筒井康隆お得意のスラップスティックだ。
登場人物の中には、こいつ小学生か、と思うほど人間性の未熟な教授達がいる。そして、未熟なヤツほど出世欲が強く、まともな授業もやらないクセに、他人の足を引っ張り、幼稚な振る舞いで他に迷惑をかける。その様がアイロニカルかつお下劣なギャグとして描かれていて面白い。
また、常態化した賄賂、トンでもない事件、メディアと大学の癒着的関係などは、全て事実を元にしているらしい。筆者自身の聞き及んだことを、一つの大学を舞台にして書いたのだそうだ。
そのため、事実を知られたくない批評家達は「ことさらに誇張しパロディ化した」みたいな事を書いてごまかそうとした、なんて話もある。
「腐った大学機構の告発」、と書くと大仰だが、とにかくそんなような皮肉がこめられた作品である。
そしてこの作品のもう一つウリは、唯野教授のセリフベタ書きによって繰り広げられる、「文芸批評論」の講義である。
まず第一に、文芸批評というものの歴史の解説本としてわかりやすく読める。
かつて貴族の嗜みであった文学が、どのようにして多様な「読み」を獲得していったか。その歴史がわかる。今流行りの池上彰のように。
のみならず、文芸作品において文芸作品について書くことが、ある種の小説的作用をもたらしている。多分
小説的作用、と言うのが一体何なのか、僕は批評家ではないので上手く説明できないが、実験的な面も持ち合わせている作品だということだ。
そんな「文学部唯野教授」には、「文学部唯野教授のサブテキスト」という副読本があって、そちらも読むと楽しめて理解が深まる。筆者が小説をこの作品を書くに至った裏話等も書かれている。
文学部唯野教授のサブ・テキスト (文春文庫)

文学部唯野教授のサブ・テキスト (文春文庫)