rhの読書録

とあるブログ書きの読書記録。

世界一やさしい精神科の本/斎藤 環、山登 敬之

世界一やさしい精神科の本 (14歳の世渡り術)

世界一やさしい精神科の本 (14歳の世渡り術)


この本は、「14歳の世渡り術」シリーズという、子供向けシリーズの中の一冊だ。
個人的な実感だが、子供向けのこういった教養(あまりこういった言い回しは見られなくなったが)的な本と言えば、誰が書いているのかもよくわからない、教科書の内容をそのままかみ砕いたような味気ないものが多かった気がする。あくまで主観だけど。
しかるに、最近の「子供向け教養本」はずいぶんと様変わりしてきた。第一線で活躍する書き手や有名人(異論は認める)が著者として名を連ね、大人が読んでも刺激的で面白い(異論は認める)本がどんどんと増えてきているのだ。
と、書いてみたものの、実は僕が知っているそんな本は「よりみちパン!セ」シリーズや、この「14歳の世渡り術」シリーズぐらいだったりする。しかし、二つもあるのだからきっと他にもあるに違いない!なぜか断言した上で話を進める。
正しい保健体育 (よりみちパン!セ)

正しい保健体育 (よりみちパン!セ)

こういったシリーズは、村上龍が書いた「13歳のハローワーク」からの流れで出てきたものではないかと思う。いずれにせよ、子供と大人が一緒に楽しめる本が増えるのはよいことだ。

新 13歳のハローワーク

新 13歳のハローワーク

で、この「世界一やさしい精神科の本」。タイトルの通り確かにやさしい。しかも、こういった本にありがちな、子供を過剰に子供扱いした薄い内容ではない。ちゃんと必要十分なことを押さえているし、知的に面白い。
実のところ、一種の「斎藤環萌え」であるところの僕は、氏の著作を読んでいる流れで、他の精神医療に関する入門書のようなものを手に取ったこともあるのだが、なんとなくこういった「精神医療とは?」といった内容の一般向けの本は、著者が匿名化されていて信頼感を持ちづらい傾向にある。
その点、この本は現役の精神科医二人が半顔出し(イラストレーション)で前面に登場している。
実はこれ、なかなか思い切った決断ではないか思う。精神科とはいえ、命に関わる医療を著作で扱うのは責任重大だ。Wikipediaの医療に関するページにも「医療に関する記事については免責事項もお読みください。」と書いてある。
この本では、著者を前面に出すことで、この本はその責任をある程度引き受ける代わりに信頼感を得ているのではないかと思う。だからといってもちろんこの本が100%全面的に信頼できると言うことを示しているわけではないけれど。

他に、中学生程度の年齢層に向けた著作として斎藤環は「生き延びるためのラカン」という本を書いているが、こちらは精神分析家「ジャック=ラカン」を引用して、心の病を理論的・分析的に解説している。

生き延びるためのラカン (木星叢書)

生き延びるためのラカン (木星叢書)

一方、この「世界一やさしい精神科の本」では、そういった理論的なアプローチよりも、あくまで地道で臨床的な心の病の症状と対症方法を書いている。
なので、子供が心の病というものを知るための第一歩としてこの本はより適していると思う。っていうかさっさと全国の小中学校の教室にこの本を置けばいいと思う。算数の公式も大事だが、心の病に対する偏見を無くすために子供のうちから正しい知識を教えることも大事なのではないか、というようなことを読みながら思った。