- 作者: 南木佳士
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/11
- メディア: 単行本
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古本屋でたまたま手にとって買った本。なので、作者のこともよく知らずに読んだ。
正直に言うと、少々古臭い私小説の手法で書かれているな、と感じた。しかし、悪くないな、とも感じた。
いったいこの本は小説なのかエッセイなのか。本の紹介は「小説」となっているが、内容はどうみてもエッセイだ。そういうところははっきりしていただきたい。って、そういうのを私小説って言うのか。
うつ病。そして猫。それらとの関わりが、切々と綴られている。決してキレイごとばかりではない。作者は自分をキレイに描いたりはしない。人として愚直に悩んだりする。オシャレでもないし、かっこよくもないし、スゴくもないし、斬新でもない。しかし、欠如していることが、ある種の効果を生んでいる。
一言で言えば、「文学的野心」のようなものが無いのである。いやいや、決して貶しているのではない。
一般的に、文学者というものは、普通の人が考えないようなことを考えるべきであると考えられている。パブリックイメージというやつである。ステレオタイプというやつである。
もちろんそれは偏見であって、必ずしもそうとは限らない。というか、「ベタなことをすべきではない」みたいな言い方自体が既にベタでなのであって、そういう言い方をするということはとてもパラドキシカルな行いであり、そのことに気づいている人と気づいていない人がいる、というだけの話である。あ、この理路には出口がない。
そういう出口の無い議論は於いておくとして、この作者は人間の、一般的な悩みを、地道に歩いている。
基本的に、「泣かせる本」の類は好まない僕だけれど、心にズンとくる重みというか手応えのようなものを確かに感じた。猫の話や父の死を、決して「いい話」に回収しないところに作者の誠実さが伺える。知的なスリルや興奮を求める人には向かないかもしれないが、今まさに悩んでいる、という人にオススメしたい一冊。