- 作者: 山本英夫
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2003/07/30
- メディア: コミック
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ホムンクルスを読んだ。
一番の印象は、絵の迫力。特にキャラの表情。狂気をはらんだ顔なんかは夢に出てきそうなレベル。
ストーリーは、一見複雑なように見えて、よく言えばシンプル。物語を支える論理は単純。要は「トラウマって怖いね」というだけのことを繰り返している感じ。「ホムンクルス」を「トラウマ」と読み替えれば大体話が通る。なのだが、絵の迫力がスゴイのでそこに説得力のようなものが生まれている。
登場人物は、ホームレス、ヤクザ、ニューハーフ、援交する女子高生など、アウトローな人が多く、その描写もステレオタイプを逸脱してはいない。一流ホテルに泊まるような人間を「あっち側」、ホームレスを「こっち側」と読んだりするあたり、いわゆるレッテル張りであるように見える。「トラウマを抑圧していた人間が、抑圧を開放することで救われる」というような展開が繰り返されるが、あまりに単純すぎてちょっと精神科医を舐めてるんじゃないかという気さえしてくる。
しかし、そういったある種ありきたりな漫画を一歩抜けだそうという作者の意志がこの作品には感じられる。ってずいぶん偉そうな言い回しだなぁ。まぁいい。
かつて『ジョジョの奇妙な冒険』で荒木飛呂彦が、超能力を「スタンド」という形で視覚的に描こうとしたように、この作品ではトラウマを「ホムンクルス」という形で視覚化しようと試みたのではないか。お、この解釈、新しくね?そうでもない?
それが精神分析的に正しい視覚化であるかどうかは別として、主人公の名越がホムンクルスの姿形を見てその人のトラウマを探ろうとする流れには、推理小説的な謎解きのスリルを読者に与えている。そしてその後に来るトラウマの、解放?消失?が、物語的なカタルシスとして機能し、叙情的な感動すら生み出している。お、この辺の文章、なんか批評家っぽくね?そうでもない?
まぁ、ここで僕が偉そうにトラウマトラウマ言うのは、以前読んだ斎藤環の『心理学化する社会』という本を読んでいて、そこに「最近トラウマがポップカルチャーの題材として持て囃されている(意訳)」と書いてあったのの受け売りなのだけれど、実際この作品はそういった時代の潮流によって生まれた作品の一つ何じゃないかなぁ、と、自信無さげに主張してみたい。
- 作者: 斎藤環
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2009/01/26
- メディア: 文庫
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トラウマ云々は措いておくとして、人間にとって、過去と向き合うという事が非常な困難であることは間違いなく、このホムンクルスという作品は、その問題に対する率直で真摯な姿勢を持って描かれているように感じた。つまり、率直に言えば、面白かった。本当に。