- 作者: 高橋源一郎,しりあがり寿
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/11/22
- メディア: 単行本
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高橋源一郎のエッセイ・コラム+しりあがり寿のイラスト。
週刊現代の連載ということで、全体的なテンションが軽妙・洒脱。
本の中で「入院していたとき、本を読もうとして夏目漱石を手にとったが、内容が重すぎて読めなかった」という、読書の「TPO」について話が出てくる。
その流れで言うと、本書は、「文学について真面目に考えたい人向き」というよりは、「普通に生活していて、たまに週刊誌を読んだりするような人向き」に書かれていると言える。そのへんのバランス感覚が非常に上手い。さすがプロである。
扱われている話題は「発掘!あるある大事典」「細木数子・江原啓之」「2006サッカーワールドカップドイツ大会」など、少々懐かしいものが多い。読んでいて「あったなぁ、こんなこと」と懐かしくなる。特に、震災後の今となっては。
高橋源一郎、という人の文章を初めて読んだのは、数年前に読んだ「新潮」だか「群像」だかの連載だったと思う。
最初の印象は「文芸誌なのに、なんてわかりやすい文章を書くんだろうか」だった。そして、読み進めるうちに、「なんて誠実な文章を書くんだろうか」と思うようになった。
ここで言う「誠実」とは「いつでも相手の立場に立って考えようとする」という意味である。
「相手の立場に立って考えなさい」というのは、小学校の先生の決まり文句だ。相手の立場に立って考える。うん、素晴らしい。みんなが相手の立場に立って考えたら、戦争も、イジメも、無くなるに違いない。
でも実際は、人は大人になるに連れて、相手の立場に立って考えることをやめてしまう。
当然のことだ。この競争社会と呼ばれる現代で、ライバルの立場に立って考えていたら、生き残る事はできない。だから、親や教師は、子どもに対して、何よりも自分自身のことだけを考えて生きればよいのだ、ということを教える。あるいは、そのような言外のメッセージを送るのである。
でも高橋源一郎は、というか、本書の語り手である「タカハシさん」は、まず何よりも、相手の立場に立って考えることを最優先している、ように見える。
おそらくそれが、本書で言うところの、おじさん的ふるまいなのだろう。
僕は、それは、とても素晴らしいことであると思う。好ましい、と思う。「おじさん頑張れ!」と、応援したくなる。
それから、しりあがり寿のイラストも、素晴らしい。一見手抜きにしか見えない、シンプル過ぎる絵柄なのだが、こんなに少ない線で、これだけの絶妙な間抜け感を出せるのは、簡単なことではない。