rhの読書録

とあるブログ書きの読書記録。

おじさんは白馬に乗って/高橋源一郎(著)、しりあがり寿(イラスト)

おじさんは白馬に乗って

おじさんは白馬に乗って


 高橋源一郎のエッセイ・コラム+しりあがり寿のイラスト。
 週刊現代の連載ということで、全体的なテンションが軽妙・洒脱。
 本の中で「入院していたとき、本を読もうとして夏目漱石を手にとったが、内容が重すぎて読めなかった」という、読書の「TPO」について話が出てくる。
 その流れで言うと、本書は、「文学について真面目に考えたい人向き」というよりは、「普通に生活していて、たまに週刊誌を読んだりするような人向き」に書かれていると言える。そのへんのバランス感覚が非常に上手い。さすがプロである。
 扱われている話題は「発掘!あるある大事典」「細木数子江原啓之」「2006サッカーワールドカップドイツ大会」など、少々懐かしいものが多い。読んでいて「あったなぁ、こんなこと」と懐かしくなる。特に、震災後の今となっては。
 高橋源一郎、という人の文章を初めて読んだのは、数年前に読んだ「新潮」だか「群像」だかの連載だったと思う。
 最初の印象は「文芸誌なのに、なんてわかりやすい文章を書くんだろうか」だった。そして、読み進めるうちに、「なんて誠実な文章を書くんだろうか」と思うようになった。
 ここで言う「誠実」とは「いつでも相手の立場に立って考えようとする」という意味である。
 「相手の立場に立って考えなさい」というのは、小学校の先生の決まり文句だ。相手の立場に立って考える。うん、素晴らしい。みんなが相手の立場に立って考えたら、戦争も、イジメも、無くなるに違いない。
 でも実際は、人は大人になるに連れて、相手の立場に立って考えることをやめてしまう。
 当然のことだ。この競争社会と呼ばれる現代で、ライバルの立場に立って考えていたら、生き残る事はできない。だから、親や教師は、子どもに対して、何よりも自分自身のことだけを考えて生きればよいのだ、ということを教える。あるいは、そのような言外のメッセージを送るのである。
 でも高橋源一郎は、というか、本書の語り手である「タカハシさん」は、まず何よりも、相手の立場に立って考えることを最優先している、ように見える。
 おそらくそれが、本書で言うところの、おじさん的ふるまいなのだろう。
 僕は、それは、とても素晴らしいことであると思う。好ましい、と思う。「おじさん頑張れ!」と、応援したくなる。
 それから、しりあがり寿のイラストも、素晴らしい。一見手抜きにしか見えない、シンプル過ぎる絵柄なのだが、こんなに少ない線で、これだけの絶妙な間抜け感を出せるのは、簡単なことではない。