rhの読書録

とあるブログ書きの読書記録。

世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析/斎藤環


 ヤンキーと精神分析、というタイトルが表している通り、この本のテーマは、精神科の臨床医でありながら、おたく文化・文学・芸術と、幅広い分野の批評活動を行っている斎藤環氏のヤンキー文化研究である。
 では、『ヤンキー』とはなんであるか。
 本書に登場する「ヤンキー的サンプル」から一部抜粋すると、「ジャージ、ゴールドのネックレス、セカンドバッグ、ジャンボカット」「サンリオ、ミキハウス、ディズニーランド」「矢沢永吉、BOOWY、B,z、GLAY、浜崎あゆみ」などなど。
 これらはあくまで「ヤンキー的なもの」であって、これらを好む人イコールヤンキーというわけではない。ディズニーランド好きが全員ヤンキーとは限らない。
 そもそも、ヤンキーという語の定義からして結構バラツキがある。個人的には、ヤンキーと言うと、「金髪、スウェットで田舎のコンビニの前にたむろしている」みたいなのを想像してしまうが、この本におけるヤンキーの定義はもう少し広い。
 斎藤氏は、ヤンキーという概念を、「おたく」の対極に置いている。もちろん、両者は二項対立というわけではなく、互い同士が混じり合うことも珍しくない。
 わかりやすいのが少年漫画の分野だろう。ワンピースやスラムダンクなんかを見ると、オタクとヤンキーのミクスチャーこそが人気漫画の条件なのではないか、という感すらある(ちなみに、ワンピースの作者尾田栄一郎氏は、任侠映画の大ファンであるらしい)。
 

 本書においても、斎藤氏お得意のジャンル横断性が存分に発揮されている。ジャック・ラカンのような精神分析の専門用語に混じって、ブロント語(最近の斎藤センセイのお気に入り)、村上春樹、3年B組 金八先生、魁!クロマティ高校ジョジョリオン(単行本2巻に登場する心理テストの下りは斎藤氏の影響だそうだ)など、個人的にツボな単語が頻出する。
 とりあえず本書の魅力をお伝えするために、中に登場する論考の一部をここに抜粋してみたいと思う。興味を持った人は是非読んでみて欲しい。
-天皇とヤンキーの親和性
-ヤンキー美学の中心は「気合」
-ギャルの美学の中心は「アゲ」
-ヤンキー文化においては”シャレ”と”マジ”が時に融合する
-本宮ひろ志の漫画の主人公になりそう=ヤンキー度が高い
-ヤンキーとアメリカ文化(和洋折衷)
-ヤンキーの女性性・母性原理
-ヤンキーの行動主義・現実主義
-ヤンキーの家族至上主義
-ヤンキーの反知性主義
 このへんにしとこう。
 あと、これは僕の完全な思いつきなのだが、最近のファイナルファンタジーでやたらとカタカナ語が連発されるのも、ヤンキー性の問題が絡んでるんじゃあないかと勝手に思ったりした。
 読んでいて少々気になったのは、どうも既視感がある、ということで、斎藤環氏の批評本をかなり多く読んでいる僕は、「いつも通りの感じだな」などという上から目線な感想を持ってしまった。
 もっとも、どうも昨今、世の中の「ヤンキー的要素」の割合が増えているように感ぜられるのも確かである。先の選挙で国政に乗り出した橋下徹などを見ていてると特に。
 今最もアツいのはオタクよりもヤンキー!なのかもしれず、だとすれば本書は、斎藤環氏の時勢を読む慧眼が成せる業なのかもしれない。