rhの読書録

読んだ本の感想など

うなぎのダンス/いしいしんじ

うなぎのダンス (河出文庫)

うなぎのダンス (河出文庫)


 世の中には、いかがわしい人、と呼ばれるタイプの人種が、一定数存在するらしい。世間が狭いことに定評がある僕は、あんましそういう人たちに会うことが機会ないのだけれど。
 占い師。マジシャン。催眠術師。あるいは漫画家や小説家もその中に入るのかもしれない。相撲取りや琵琶奏者、というのは、伝統に支えられた職業と考えられがちだが、けっこうアヤシイんじゃないか、と僕なんかはニラんでいる。
 いかがわしい人ほど、実は自分に素直に生きているのだ、みたいなわかったようなことを一瞬言いたくなったが、すぐやめる。そーゆうのは単なるカッコつけだ。
 いかがわしいという言い方が悪ければ、アウトロー、と呼んでもいい。世間から半歩はみ出したような人たち。完全にはみ出されたら、こっちに迷惑がかかりそうでちょっとイヤだけども。
 そういう、ちょっとはみ出した人たちは、あっちにいったりこっちにいったり、自由に動くことが出来る。彼らが潤滑油的な役割を果たしていてくれるおかげで、われわれの社会はうまくまわっているのではないか。
 もちろん、彼ら・彼女らに、あるいはこの本に、そんな目的意識があるわけではないだろう。「印刷機械にインタビューしたらおもしろいんじゃね?」というのが目的の全てであり、だからこそ、彼ら・彼女らも、この本も、おもしろいのである。
 しゃべらなくてもマジシャンになれる。100歳過ぎてからテレビに出ることも出来る。「多様な生き方」というありきたりな言葉では表せないような人間の生きかたが、この本には詰まっている。すなわち「人生の教科書」。あるいは「人生の副読本」といったところか。
 ちなみに、文庫化に際していくつか削られたインタビューがある模様。中には人生をすっかりはみ出しちゃった人も…。それもまた人生、というやつだろうか。やり直せていることを願いたいものである。