これはメルヘンだな、と読み終えて思った。直感で。
短編集であり、中には完全なリアリズムと読めるものもあるけれど、にも関わらず、全編通してメルヘンだな、と感じた。その意味でこの本は、メルヘン(と言っていいのか厳密なところはよく知らないけれど)を書いた宮沢賢治のグレーテストヒッツなのではないかと思う。
エロスやパロディや固有名詞の借用やブラックな要素があったり、小説そのものが小説論になっていたりと、高橋源一郎の作品に共通するモチーフと、宮沢賢治のメルヘンが合わさって最強に見える…じゃなくて、まったく新しい物語が生まれている。
もうひとつ、全編に通じているのは、「ものすごく切ない話」だということ。荒唐無稽で、モノによってはバカバカしさすらあるのに、あまりに切なすぎて、なかなか読み進めることが出来なかった。
なぜ切ないのかというと、「失ってしまったもの」「死んでしまったもの」を描いているからで、それは末尾の「ざしき童子のはなし」と「水仙月の四月」の二編において極まっている、と思う。
しかもその切なさは、いかにも小説家が頭の中だけでこしらえたような切なさではなく、生きる上で普通に身近にあるような、ありふれた、でもどうしようもないような切なさだったりして、それを小説上で描いた小説は希有である。
そう考えてまた本書を読み返してみると、そこに描かれているのが、仏教で言うところの「生病老死」であり、だから普遍的なのかな、とも思った。
また、死んでしまったものは、生きているものとは別のルールで動いているので、だから高橋源一郎の小説はへんてこにならざるを得ないのかな、というようなことを考えた。
切なくて、美しくて、とてつもなくいろいろなものを含んだ小説。つまり、名作である。
- 作者: 高橋源一郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/10/20
- メディア: 文庫
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