rhの読書録

読んだ本の感想など

虹の彼方へ/高橋源一郎

虹の彼方に (講談社文芸文庫)

虹の彼方に (講談社文芸文庫)

 『カール・マルクス』という人物が、言葉が、高橋源一郎という人にとってどんな意味を持っていたか。そのことについつい思いを馳せてしまう。ニコニコ大百科にわかりやすい一文があったので引用。

今でこそマルクスを学ぶなんてのは超一部の者だけであるのだけれど、当時はマルクスについて学ぶことがインテリの条件であり、東大や京大を筆頭に優秀な大学生たちはこぞってマルクスを読み漁ったのである。
 カール・マルクスとは (カールマルクスとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

 全共闘世代に取って、マルクスの『資本論』は聖書のような物だった。多分。しかし、彼らの運動は、どんどんグズグズでダメダメな物になっていった。多分。「多分」が多いのは、現代の若者である僕にとって全共闘とはその程度の認識であるということを示すためであって、決して手抜きではない。多分。
 そしてこの小説。一切の原因は『カール・マルクス』であり、最後に『カール・マルクス』が『虹の彼方へ(オーヴァー・ザ・レインボー)の夢を見る。『カール・マルクス』という名前を持っているというだけで、それ以外のマルクス的要素は持ち合わせていないわけだが、それでも『カール・マルクス』という名前を使ったことへの強い必然性を感じる。もちろんそれは僕の後付けの想像なのかもしれないが。
 他にこの小説についてなにかを言うのはちょっと難しい。脈絡のない筋書きと、没論理的な会話。引用とメタフィクション。そしてそれらが全て面白い。ただ、それらはかなりの度合いで非日常なので、読むのに時間がかかる。
 ヘタをすると小説観が変わってしまう恐れがあるので、心して読むといいかもしれない。いやほんとに。