rhの読書録

読んだ本の感想など

あらゆる小説愛好家に。(創作の極意と掟 / 筒井康隆)

 筒井康隆の小説は、正直言ってそれほど多くは読んでいない。『文学部唯野教授』はすごく面白く読んだ。『虚人たち』は、読んだ当時はちんぷんかんぷんだったけど、後々になってどういう意図で書かれたのかを知って納得した。あとは初期の短編をいくつか読んだことがある程度。

 なぜあまり読まなかったかというと、どうも筒井康隆というと色々なジャンルの小説を書いているイメージがあって、小説であれ音楽であれいろんなジャンルで活躍できる人の作品は、なぜだかわからないけれど昔から手が出にくいのである。ちなみに音楽だと椎名林檎がそれに当たる。

 多分僕はそういったいわゆる芸術と呼ばれるような作品に、製作者の人となり、キャラクター性のような物を求める傾向が強いのではないかと思う。作品の中からキャラクターを読み取るためには、なるべく毎回似たような性質のものであった方がわかりやすいわけで、逆になにかを作るたびにその傾向が変わるような人は、イマイチ人物像が掴みづらい。

 だからそれは純粋に僕自身の読み方の問題ではあって、筒井康隆の作品そのもののクオリティはどれを読んでもすごく高い。ここで僕が言うまでもないことだけど、実際すごい。

 で、その筒井康隆が、小説の書き方についての連載を文芸誌に連載していたのを、誌上で何度か見かけた。単行本になるのかな、と思ったら、なった。それが『創作の極意と掟』。帯に町田康がコメントを書いている、というのもあって即買いした。

創作の極意と掟

創作の極意と掟

 内容としては、「小説を書く上で意識すべきこと」だとか、「小説で用いられる技法とその効果」といったものの紹介がほとんどで、わりとエッセイ調。

 なので、この本を読めば即座に小説を書けるようになる、といった類の本ではないと思う。多分そんな本はこの世に存在しないと思うけども。

 なにしろ古今東西の小説を引っ張ってきて紹介しているので、話のスピードについていくのが大変だが、話していること自体はわかりやすい。僕のようなペーペーの読書家でもなんとかわかった、と思う。きちんと記憶できているかどうかはかなり怪しい。

 序言によるとこの本は、プロの作家、およびプロの作家になろうとしている人へ向けて書いた、とのことだが、ということはつまり小説における「キモ」の部分について大作家・筒井康隆が直々に教えてくれる、ということであり、それがあらゆる小説愛好家にとっても面白い本になるのは至極当然の話である。

 果たしてこの21世紀に、文学なんてものが必要なんだろうか、というようなことを、まぁたまに考えたりもしているのだが、少なくとも
そういう僕のような人にとっては、間違いなく読んで損はない。というかむしろ積極的に読むべし。優れています。