芥川賞作家がゲームに関するコラムを書いている、と知り、さっそく読んでみた。それがこの『ゲームホニャララ』。著者のブルボン小林は長嶋有のペンネームである。
- 作者: ブルボン小林
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2009/09/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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冒頭から、ゲーマーが思わず「なるほど」「あるある」とつぶやいてしまうようなツボを突いたコラムの連続。ついつい読みふけってしまう。
例えば、コイン。スーパーマリオシリーズをプレイした人にはお馴染みの、ついつい集めてしまうあのコイン。100個集めると1UPするわけだが、必ずしも集めることがクリアに必須というわけではない。最近のマリオなんかは、難易度が低いので残機そのものがあまり必要ではなかったりする。
にも関わらず、コインと、コインをとったときのあの「コイーン」という効果音はマリオシリーズの象徴になっている。筆者はその理由を「むきだしの「金」を「集める」という行為それ自体に、(下品といっていい)快楽があるはず」だからであり、お金が落ちているという状況に対して「現実と同様に気持ちが慌てる」からだと分析する。
我々は、というか少なくとも自分は、ゲームをプレイするときにそんな小難しいことを考えたことはあまり無かった。無心で、というと聞こえがいいが、要するに、なあんにも考えずに無闇やたらとコイン集めに耽っていた。しかるにそこに目をつける筆者・ブルボン小林氏の慧眼たるや。洞察力、とはこういうことを言うのだろう。なにも考えずに「耽る」ことができるのも、ゲームの良さの一つなわけだが。
そもそもゲームをプレイするという行為は、それ単体で見ればある意味で不毛である。どんなに敵を倒しても、世界を救っても、現実世界にはなんの変化も起こらない。せいぜいゲーム機内の記憶領域の電子的状態がほんの少し書き換えられるだけのことだ。
しかし同時に、ゲームとは、徹頭徹尾人間によって作られたものである。つまりゲームをプレイすることは、ゲームを通じて、人間と向き合うことに他ならないのである。人間と人間の関わりあい。これはもはや一つの立派な文化であると言えよう。ちょっと大げさか?
ともあれ、ゲームを通じて何を感じ、何を学ぶかは、その人次第であることは間違いなく、その意味で筆者はゲームを遊ぶ達人であり、本書の連載時のタイトルに即して言えば「ゲームソムリエ」と呼ぶにふさわしいなぁ、と思いましたです。ハイ。
筆者は少年時代、セガやMSXのゲームをメインでプレイしていたそうで、本書で取り上げられているゲームにはかなりマイナーなものも含まれている。しかし自分のようなスーファミ〜プレステ世代のヌルゲーマーにはそれが逆に新鮮であった。
随所にユーモアが交えられ、挿絵の一コマ漫画も味がある。いわゆるコンシューマーゲーム全般が好きな人なら楽しめること間違いナシの一冊。
なお、本書掲載のものより以前のゲームコラムを収めた『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』も続けて読んだが、こちらはややテーマが雑多な感があるものの、同様に面白く読めた。
- 作者: ブルボン小林
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/09/09
- メディア: 文庫
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