rhの読書録

読んだ本の感想など

僕が愛したMEMEたち / 小島秀夫

 『メタルギアソリッド』シリーズ。今、日本が世界に誇れるゲームシリーズの一つである。

 そしてそのメタルギアソリッドの捜索指揮を執る「小島監督」こと小島秀夫が、これまでにどのような本や映画などを愛好してきたかを自ら語るのが、本書『僕が愛したMEMEたち ――いま必要なのは、人にエネルギーを与える物語』である。

 

 ご存じの方も多いと思うが、メタルギアソリッドというゲームの内容をかいつまんで説明すると、主人公の「スネーク」が、敵地や戦場などに単独潜入するゲームである。かいつまみすぎか?

 なにせ敵地なので、一度敵に見つかってしまうと、後から後から敵が湧いてきて、数の暴力によってスネークがボコボコにされてしまう。っていうか銃でハチの巣にされてしまう。上手い人ならこの限りではないが。

 なので、基本的には敵に見つからないよう進むのがセオリーであり鉄則となる。かくれんぼ好きの『ランボー(2以降ね)』といえばわかりやすくなるだろうか。わかりにくくなるだろうか。

 戦場で孤立無援のひとりぼっち。にもかかわらずスネークは仲間との無線連絡でジョークを飛ばすような余裕さえ見せる。それがすごくかっこいい。まさにヒーロー。

 そんなスネークのかっこよさにシビれ、僕もまた多くのゲーマーと同じようにメタルギアにハマった。もちろん最新作の『メタルギアソリッドV グラウンド・ゼロズ』もプレイしましたよ。スゲカッたですよ。ええ。

 で、本の話に戻ると、本書では、幼いころに父を亡くし、学校から誰もいない家に帰るたびに部屋中の電灯を点け大音量でテレビを流して寂しさを紛らわすような「鍵っ子」だったという小島秀夫の遍歴が語られる。そんな彼の孤独が、スネークという孤独なヒーローの原型となったのかもしれない。

 心に孤独を抱える多くの人がそうするように、小島秀夫もまた、映画や小説やマンガにハマった。そしてそこで培った(小島監督が言うところの)「MEME」が、メタルギアの源泉となったのだ。イイハナシダナー。

 実際、日本のゲームクリエイターの中で小島監督ほど、映画や小説をベースにしたゲームを作っている人はいないと思う。ゲーム以外の他のジャンルの世界においては、一流の表現者ほど多ジャンル・多量の作品に精通しているのが常であるが、ゲーム業界にまだまだそこまでの人は見当たらないのが現状である。って僕が見えていないだけの可能性も高いが。

 メタルギア好きの人で、小島監督経由で面白い本や映画に出会いたいと思っている人にとっては、充分に読み応えのある本。小島監督の趣味趣向に迫るための一助となるだろう。

 ただ、率直に申し上げるなら、この本単体で抜群に面白いというほどではなかったかもしれない。厳しい言いかたをすれば「あの小島監督が」という接頭辞付きで成り立っている本。もちろん小島監督はプロの評論家じゃないんだから、一流のレビューを期待する方が間違っているんだろうけど。

 あと、あまりにも文中に「MEME」という単語が頻出するので、「そーいうのをギョーカイ用語で『バズワード』と呼ぶのでは…?」と思わずつぶやきたくなったことも付記しておく。