rhの読書録

読んだ本の感想など

頑張って生きるのが嫌な人のための本 / 海猫沢めろん

 死にたいと思ったことは、正直に言って無い。このまま煙のように消え去ってしまいたい、と思ったことなら何度もあるが。

 死ぬことと、消え去ることの違いがなんなのかとちょっと考えてみる。

 死ぬということは、現実の、肉体の、物質的な出来事である。仏教における四苦に含まれる、「生病老死」の「死」である。死とは、肉体が機能を停止し朽ち果てることであって、村上春樹が書いていたとおり、死もまた生の一部として存在している。

 対して消え去るというのは、もっとファンタジー的な、非実存的な、フィクション化された、脱臭された、現実逃避としての消滅である。ただ単に、どこにもいない存在になりたいという、不可能な願いのことである。ただ消えるだけでなく、随意に消えたり現れたり出来るならなおよい、などと都合のいいことを考えたりもする。



 僕はなんの話をしているのだろう。

 この本は、海猫沢めろんという人が、自殺した友人Kについての回想、考察を交えつつ、ゆるく生きるための方法を模索していく本である。副題に「ゆるく自由に生きるレッスン」とあるが、レッスンというよりはエッセイに近い内容となっている。

頑張って生きるのが嫌な人のための本~ゆるく自由に生きるレッスン

 率直に申し上げるなら、話題があっちゃこっちゃに行きがちでとっちらかっている印象はある。あるのだが、読んでいくうちに、それは「どう生きるか」というむつかしい問題について考えるに際しての、最低限のマナーであるようにも思えてくる。

 また著者は「自分探し」というものに否定的だが、これまた率直に申し上げるなら、土木作業やデザイン事務所で働いたり、ボクシングジムに通ったり怪しい宗教に足を突っ込んでみたりといった異色の経験を持つ著者は、どちらかというと絵に描いたような「自分探し」系なのではないか?と僕なんかは思った。

 ただ、そういうタイプの人の多くが、己の経験を絶対視して上から目線の極めてツマラナイ本を書いたりしがちだが、本書は全然そんな風にはなっておらず、いろんな経験をすれば経験は増えるけど、なにかを悟れるわけじゃないんだよ、というスタンスで、今悩んでいる人と同じ目線で語られているという印象を持った。ただし全体的にトーンが暗めな感じがあり、今現在苦しんでいる人が読んでも大丈夫かな?とも思った。