rhの読書録

読んだ本の感想など

ぐっとくる題名 / ブルボン小林

 ブログを書く上で、タイトルをつける、という作業は避けて通れない。

 いや、本当は避けて通ることも出来なくはないんだけれども、大抵のブログサービスはタイトルを付けないと投稿することが出来ないわけで、仮にタイトルをつける作業から逃れるために「;あいwmzんc@じが」みたいなキーボードをデタラメに叩いて生成した文字列のタイトルで公開した場合、見た人に頭がファンシーな人のブログだと思われて誰も読んでくれない恐れがあるし、自分で読み返すときも内容がわからなくてすこぶる困る。っていうかそもそもメリットがないし。最低限、内容がある程度わかるようなタイトルをつけるべきだろう。

 最近聞いた話だが、大手新聞が伝えるニュースは、紙面上の見出しとWeb版のタイトルを別のものにしているらしい。新聞紙上につける見出しは、パッと見てニュースの内容がすぐにわかるような文言にしてあり、対してWeb版のタイトルは、とにかくアクセスしてもらうことが重要なので、見た人が「おっ?」と思わずクリックしたくなるような、一見して内容がわからないようなフレーズを使うそうである。もしかするとインターネット時代の今日では、内容よりもタイトルのほうが重要視されるようになってきているのかもしれない。はたしてそれでいーんだろうか、と思わないでもない。

 ブログも同様に、見ただけで興味を引くようなタイトルをつけたほうがアクセスは増えるだろうが、あまりに扇情的だったり本文と関係のないタイトルをつけてしまうと、読んだ人に不快感を与えてしまう。ほどほどが肝要、といったところだろうか。

 このブログも、実はタイトルのつけ方をいろいろ試行錯誤してきた。取り上げる本の書名と著者の表記をどうするかとか、書名の他に内容を表すタイトルをつけるべきかとか、冒頭に【書評】とか【読書メモ】とかをつけるべきか、とか。一応今はこの表記に落ち着いているが、いまだにこれでいいのか悩んだりもしている。



 本書はコラムニストにして芥川賞作家の顔も持つブルボン小林が、古今の小説・マンガ・音楽などの中から、文字通り「ぐっとくる題名」を集め、なぜぐっときたのかを解き明かそうというエッセイ集(ところでエッセイとコラムってどう違うんだろう?)である。10月に文庫化すると聞いたのだが、待ちきれずに新書版を読んでしまった。

ぐっとくる題名 (中公新書ラクレ)

ぐっとくる題名 (中公新書ラクレ)

増補版 -  ぐっとくる題名

増補版 - ぐっとくる題名


 ブルボン小林が書くコラムにハマりだしたのは半年くらい前だろうか。芥川賞作家なのにマンガについてのコラムを書いている、というのに興味を惹かれて手に取った「マンガホニャララ」が、うっかり数年ぶりに逆立ちしてしまうくらい面白く、急いで他のコラムも買い求めた。

マンガホニャララ (文春文庫)

マンガホニャララ (文春文庫)

 ネットのレビューだけでは味わえないマンガの魅力(マンガホニャララ / ブルボン小林)  - 思考だだ漏れ読書録

 なにがそんなに面白いか、というと、「ふつうの人が注目しない部分に注目して分析している」ということ。コレ、言葉で言うとカンタンだけど、実際にできている人は極めて少ない。

 例えば、本書で最初に取り上げられている「ゲゲゲの鬼太郎」という題名の「の」について、筆者は2ページを割いて紹介している。たった一文字に2ページ。しかも評論でもなんでもないコラムで。そしてそれがいちいちわかりやすく、ユーモアと知性を兼ね備えている。

 「の」でつないでいるということは、「ゲゲゲ」は「三丁目」や「隠し子」と遠くない言葉のはずだ。「お茶うけ」「レジャー」などの系列の言葉ではない。もしそうだとしたら「ゲゲゲに鬼太郎」となっているはずだからだ。
 我々はこれまでゲゲゲばかりに気を取られていて「の」でつないでいることの不思議さを見落としていた。足元がお留守だった

 こんな調子で見事に分析したのちに、「題名において、整合性がとれていることと、心に響くことは必ずしも両立しないのだ。」と締めくくる。

 本書の面白いところは、題名をメインで取り上げて内容についてはあまり触れない、という方針で書かれているところなのだが、時には筆者が全く内容を知らない本やマンガも取り上げていたりもする。

 常識的に考えると、題名について考えるのに内容を知らないのはおかしいんじゃないか、と思ってしまいがちだが、内容を知らないことによって、題名だけで内容を推察するという余地が生まれ、更に先入観に縛られずタイトルのみを分析することにも繋がっている。わからない、ということがアドバンテージになっているのである。これもまた面白いところ。

 著者は俳句を作ることもあるそうだが、俳句も題名も、短い語句の中に意味を込めるという点で共通する部分があるのかもしれない。本書中でも「二物衝突」という俳句用語を用いている。

 また「ブルボン小林」というペンネームの由来は、インターネットがまだパソコン通信だった時代にチャット(掲示板だったかもしれない)でお菓子メーカーのブルボンと小林製薬のCMの素晴らしさについて熱弁を振るったことで周りの人につけられたものだそうで、CMと題名という、フツーの人が見ないところに注目するセンスにどこか通じるものを感じる。

 軽いジョーク交じりの文体でとても読みやすく、題名というものに興味がなくても本やマンガや音楽が好きな人ならだれでも楽しめることは間違いない。もちろん、題名、というものについて日々悩んでいる人にもオススメの一冊。