rhの読書録

読んだ本の感想など

勝手に生きろ! / チャールズ・ブコウスキー(著) 都甲幸治(訳)

 本屋でたまたま目に入った本。翻訳者が都甲幸治ということで、買って読むことにした。

 都甲幸治のことは、たまたま読んだ雑誌「文學界」に載っていた、村上春樹についての評論で知った。面白かったので、同じく彼が書いた「偽アメリカ文学の誕生」も読んだ……ような記憶があるのだが、読了はしていないかもしない。

 自分は翻訳小説を読むのがどうも苦手。日本語としての不自然さが気になってなかなか筋が頭に入ってこないことが多いのだ。しかしこの小説はすんなり読めた。文章がかなりシンプルだったからかもしれない。


 主人公のチナスキーは、端的に言ってしまえばろくでもない男である。日雇い仕事を転々とするものの、そもそもまともに働こうという気が毛頭無いため、すぐにクビになる。ヒドいときには見開き1ページ毎に仕事をクビになる。「やれやれ、僕は射精した」ならぬ「チクショウ、クビになった」である。なにが「である」なのかは分からないが。

 仕事中に上司の目を盗み酒を飲んではクビになり、競馬にのめり込み過ぎてはクビになり、あまつさえ同僚の女を口説こうとしてクビになる。飲む、打つ、ヤる、そしてクビになる、という四拍子揃った自堕落暮らし。

 こう書くと、好き勝手やって楽しそうにも見えるが、実際の彼の暮らしは、全然楽しくなさそう。貧乏ゆえに生活は苦しく、競馬で手にした大金をすぐに浪費。女を抱いても得られるのは刹那の快楽だけ。恋人のジャンは誰とでも寝る女で、あげくビョーキをうつされる始末。

 彼のあまりのやけっぱちさは、彼なりの社会への八つ当りのようにも見える。あるいは自分自身を罰しているのだろうか。

 放蕩という点では太宰治と共通している気がするが、己の自意識までを切開して露悪的に見せびらかすような太宰とは違い、チナスキーはただただ即物的に生きる男である。反省する太宰、全く反省しないチナスキー。


 それにしても、これほど粗野で下品な文章だけで書かれた小説を読んだのは初めてかもしれない。ワイルドでダーティー、と言い換えてもいい。しかしそれが面白い。それだから面白い。

 あまりに乱暴すぎて、思わず吹き出してしまうような場面もあった。序盤でチナスキーが娼婦に○。○○○されるシーンなどは、悲劇を通り越して喜劇である。

 またあまりに下品すぎて、もはや名文としか言いようがないようなフレーズも出てくる。一度でいいから「ビンビンに勃たせるぜ、ベイビー」などと言ってみたいものである。


 世にあふれる生ぬるい「救い」のようなものは、この本の中には登場しない。しかし、あられもなくむき出しであるがゆえの、ある種の風通しの良さのようなものは確かにある。チナスキーになりきって「こんな世の中クソクラエだ!」とばかりに読み進めていけば、まぁ大抵のことはどうにかなるんじゃないか、みたいな気分になれる、かもしれない。