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車谷長吉の人生相談 人生の救い / 車谷長吉

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)

 すごい本である。人生相談でありながら、質問者の質問に対して、ほとんど「俺だって苦しい」とか「生きることは苦しい」というような、絶望的な回答しかしていない。

 しかも“いままでのところ、あなたはなまくらな人です”とか“あなたには一切の救いがないのです”とか、とにかく辛辣で毒舌。

 一見、毒のように見えるそれらの言葉には、露悪的なところがなく、むしろ日々の生活に立脚した実感がこめられている。「俺も苦しい。みんな苦しい。だから我慢しろ」というような上から目線ではなく、「わたしも苦しい。あなたも苦しい。救いはありません」というような、突っけんどんでありながら、どこか悟りの境地めいた遠大さを感じさせる。

 苦しみだけの人生、なぜ生きなければならないのか?などと僕のような凡夫はつい考えてしまうわけだが、「生き物を殺して食べなければ生きていけない人間は、生まれてきた事自体が罪」「死ぬ勇気がないのでおめおめと生きてきた」というような筆者の持論を聞かされると、そんな悩みは吹っ飛んでしまう。

 覚悟、という言葉は、自分の運命を悟り、それを受け入れることを意味するが、筆者の回答は一見後ろ向きでありながら、実は強い覚悟に裏打ちされている、と感じさせられる。

 じゃあこの本を読めば、その覚悟が得られるか? ってそんなわけはない。本というのはそういうものじゃない。なにを当たり前のことを言ってるんだ僕は。

 苦しみを乗り越えることで人は強くなる、という言い回しがあって、それが本当かどうなのかはわからないが、少なくとも、苦しみを乗り越えることで覚悟ができる、のは確かだと思う。そのことを筆者は「この世の苦しみを知ったところから真の人生は始まるのです」と書いている。

 真の人生とは一体どんなものだろう、という疑問は一旦置いておくとして、筆者は人生の指針として“阿呆になることが一番よいのです。”“この世に人間として生まれて来たことの不幸から、少しでも救われたいと思う人は、文学・芸術・哲学の道に進む以外に途はない”“人生は毎日迷いの連続です。その迷いの段階で、必ずより困難な道のほうを選んでいけば、そこから新しい道が開けてきます。”と書いている。

 また、小説を書きたいという老人に対しての回答で、この世には、頭のいい人、頭の悪い人、頭の強い人、頭の弱い人の四種類がいて、絶対に小説を書くことができないのは「頭のいい人」で、一番向いているのは「頭の強い人」だと答えている。つまり、善人には小説は書けない、と。面白い。

 本当に苦しみを乗り越えるためには、苦しみを肯定し切る必要があり、そのための道は必ずしも平坦ではなく、もしかすると道ならぬ道だったり、道を外れた道だったりするのかもしれない。むき出しの人生とは、そういうものなのかもしれない。そんなことを考えさせられる本だった。