rhの読書録

読んだ本の感想など

おたく神経サナトリウム / 斎藤環

おたく神経サナトリウム

おたく神経サナトリウム

 "日本一「萌え」に詳しい精神科医(帯文より)"こと斎藤環による連載時評の書籍化。主に「おたく」にまつわるトピックが扱われている。

 もともと斎藤環の本をよく読んでいたので、連載中から気になってはいたのだが、「ゲームラボ」という雑誌が少々アウトローな感じだったのであまりフォローはしていなかった。書籍化によってまとめて読めるようになったのはうれしい。

 あくまでも自身はおたくではなく「おたく愛好家」であることを自認している著者の分析は、しかしあくまでも鋭い。二次元ポルノの規制に反対し、ゲーム脳を批判する姿勢は、まさしく「おたくの味方」といったところか。

 著者自身による定義によれば、「おたく」とは「二次元で抜ける人」であるが、個人的には「アニメ・マンガの『キャラ』で抜ける人」と言った方が正確な気がする。前者の定義だと、葛飾北斎の春画で抜ける人もおたく、ということになってしまう。まぁ、それはそれで正しい定義なのかもしれないが。

 そんなおたくにまつわる歴史を振りかえりながら、「こんな面白い作品があるんだ」とか「あんな事件があったね」ということを知ることができる本書は、「おたく教養本」として大変優れていると言わざるを得ない。

 なにしろ文体がライトなので読みやすい。ときどき文法が間違っているように見えるところがあるが、全てネットスラング(主にブロント語)であることは確定的に明らか。

 どのような教養が得られるかというと、例えば本書冒頭、2001年の時評では、「エイリアン9」というアニメが取り上げられる。エイリアンを防具として体に規制させて戦う美少女アニメである。もちろん僕はそんな作品は知らなかったが、今聞いても斬新な設定だ。

 で、エイリアン9でググると、今でも考察が行われていたりして、かなりの人気があったことがうかがえる。よし、覚えておこう、エイリアン9。

 みたいな感じで「ページをめくる→グーグル検索」を繰り返しているとなかなか読み進められないわけだが、やっぱり知らないことを知るのは楽しいなぁ、なんていう小学生並みの感想を抱いたりもする。

 他にも、エルシャダイの話題が出たときはMAD動画を見返したり、佐村河内事件のポエム化問題についての文章を読んではMAD動画を見直し、号泣議員こと野々村竜太郎の件に触れたところでMAD動画を見る。こいつMAD動画ばっか見てんな?

 もちろん真面目な話もちゃんとある。ゲーム脳問題。秋葉原通り魔事件。児童ポルノ規制問題。おたくの歴史は明るい話題ばかりではなかった。

 果たしておたくに未来はあるのか? っていうかイマドキおたくなんてどこにいるの? いや、コミケがあれだけ盛り上がってるんだから、いっぱいいるでしょ。でも二次元で抜くなんてもうわりと普通じゃない? そうでもないか。とりあえず二次創作の非親告罪化は避けられたみたいだから当面は大丈夫なのかな。

 なんてことを思う私は萌えを解さない、どちらかというとゲームオタクに分類される人間なのだが、狭義のおたくの活動が規制されるようなことがあれば、日本のオタクカルチャー全般が委縮することにもなりかねないので、なるべくそういうのは避けてもらいたいと願っている。

 あと個人的な話だが、小田嶋隆先生がゲームラボに連載を持っていた、ということを本書を読んで初めて知った。

 はてな的には、となりの801ちゃんの名前が出てきてちょっと驚き。はてな村奇譚の人というイメージの方が強い自分は紛れもないニワカ。というかそもそも著者ははてなダイアリーユーザーだったりする。

d.hatena.ne.jp