- 作者: こうの史代
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2008/01/12
- メディア: コミック
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アニメ映画が大ヒット中の作品だが、原作のマンガ版を2013年の発売直後に家族が買っていたので、今更ながら読んだ。
とても面白かった。「良い作品に出会ったときの何とも言えない感動」をしみじみと感じた。
しかし、読み始め数ページの印象は「なんだか普通の漫画だな」だったことを、あえて正直に書いておくべきだと思う。
特に主人公のすずが子供時代の章は、のんびりとした牧歌的な昭和の日常が描かれるため、ドラマチックな展開はあまり無く、自分にとっては一日一章ペースで読むのがちょうどよかった。大人になった章からは一日で一気に読んでしまったが。
普通だと感じたもうひとつの要員として、あまりにも映画版の評判が良すぎて、期待値が上がりきっていたことも無関係ではないと思う。
これは「東京ポッド許可局」というラジオで言っていたことのほぼ受け売りなのだが、どうも映画版は「主演声優」だとか「戦争映画」だとかいった、映画の良さそのものとは別の部分で過剰に持ち上げられているように感じられる。まだ観てないけど。観ようよ。
少なくとも原作であるマンガ版の感想として言うならば、「一見地味だがとても深い魅力を持っており、しかも万人が読んで楽しめるマンガ」だと感じた。
なのでおそらく映画版を人に勧めるときも「日本映画史上最高傑作」だとか「これぞ反戦映画」みたいなセンセーショナルな言い方よりも、「普通に面白くて感動できる映画だ」と言ったほうが、変にハードルが上がらなくて良いし、より多くの人に届くのではないかという気がする。まぁちょっとばかり後出しジャンケン的な意見になってしまうかもしれないが。
それはそれとして、このマンガ、本当にスゴい。
読んだときのインパクトもスゴいのだが、それ以上に、読み終わってから時間が経つほど「あぁ、スゴいマンガだったなぁ」という思いがしみじみとこみ上げてくる。
一人の女性の人生を、時代を、土地を、戦争を、日常を、あますことなく描いている。誇張も抑圧も無しに。
あるいは、人間が生きるということ、流されること、流された先で生きること、戦うことや逃げること、ありふれているのにかけがえのないものに出会うこと、かけがえのないものを失うこと、失ったあとを生きること、などを。
「文学びいき」の僕個人としては、これはもう文学じゃないか、と言いたくなる。
それはどういうことかというと、大切なものは全部このマンガの中にある、と言い切ってしまいたくなる、というか、でも全部なんてあり得る? と思いつつ、いや、あるよ、全部、と断言できるような、そんな奇跡的なマンガだ、ということだ。そしてそれを一言で言えば「スゴいマンガだ」ということになる。
ほのぼのした日常を描くことで誰もが楽しめる作風になっており、かつ膨大な時代考証によって当時の社会風景を細かく再現している。ぜひ次の『はだしのゲン』として全国の学校図書館に置くべきだと思う。少々大人な表現もあるが、むしろ教育によいのではないかと。
伏線の張り方、すずのラブロマンス、戦災の恐怖を描いたサスペンス要素など、(あえてこういう言い方をするが)エンタメとしてのクオリティも素晴らしい。
もちろん映画版も、かつての火垂るの墓のように毎年夏にテレビで放送すべきだろう。多分。まだ観てないけど。観なきゃダメだろ。今度観てきます。