rhの読書録

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誰でも簡単! 世界一の4:6メソッドでハマる 美味しいコーヒー / 粕谷哲

 去年くらいから、コーヒー豆をミルで挽いてペーパードリップで飲むようになった。というとめっちゃコーヒーにこだわりがある人みたいだけど、別にそういうわけではない。

 粉と豆は値段が変わらない。そして自分で豆を挽いた方が、手間はかかるけどおいしくなる、ということに気づいた。だから豆で買うようになった。

 豆の種類や淹れ方による味の違いなんてよくわからない。だいたい豆を買う基準は「安い」の一点なんだから、違いがわかるはずもなく。

 違いがわからなくてもコーヒーは美味しい。豆でも粉でもインスタントでも缶でも。だから飲んでいる。


 コーヒーの淹れ方、そのうち現在一般的なペーパーを用いたハンドドリップについて調べていると、一つの問題に突き当たる。「全員言っていることがバラバラすぎる」という問題。

 真ん中に注げ。いや、端まで注げ。ペーパーをあらかじめお湯で濡らしておけ。いや、味が薄まるから濡らすな。途中でドリップを止めろ。いや、最後まで落としきれ。ドリッパーを揺らせ。あまりにもバラバラ。

 自分は全然やらないけれども、ゴルフというスポーツにも様々なコーチが提唱する無数の「コツ」があるそうで、ジョン・アップダイクは「様々なコツを頭に思い浮かべながらプレイするのがゴルフだ」というようなことを書いていた。コーヒードリップにもそれに似たところがあるのかもしれない。
rhbiyori.hatenablog.jp


 そんな自分がYouTubeで知ったのが著者の粕谷哲氏。コーヒーバリスタの世界チャンピオンとのこと。テレビ番組に出演しているのも見かけたことがある。

 彼が提唱する「4:6メソッド」は、そんな問題に対する自分の悩みに一定の回答を与えてくれた。

 いわく、4:6メソッドは唯一絶対のドリップ方法ではなく「誰でも簡単に美味しいコーヒーを入れられる方法」だという。

 ただ僕は、検証や試行錯誤を繰り返した結果、注ぐお湯の量や回数、タイミングなどをきちんと数字で押さえてコントロールさえすれば、「誰でも簡単に、アベレージを超える美味しいコーヒーを淹れられる」という結論に辿り着きました。4:6メソッドは、それを実現する抽出レシピです。[p12]

 あくまでも「誰でも簡単に」という部分が主眼であって、たとえばプロのバリスタのように最高の豆、最高の器具、最高のテクニックを用いることができるのであれば、美味なるコーヒーを淹れるのが造作もないことなのは火を見るよりも明らか。

 でも当然ながら、その他の99.9%のコーヒー愛好者の環境はそんなに恵まれているわけじゃない。豆の質もバラバラ、道具もバラバラ、注ぐ技術もない。それでも一定程度の味のコーヒーをドリップできるようにする方法はないか、という発想で考案されたのが4:6メソッドだという。

 詳しいやりかたはYoutubeで検索したほうが正確なのでここでは紹介しないけれども、4:6メソッドが最も画期的なところは「粗挽きにすること」なんじゃないか、とコーヒー素人の自分は愚考する。

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 教科書的なメソッドでは「ペーパードリップは中細挽きがオススメ」とされているけれど、あえて粗挽きにすることで、お湯が早く落ちていくため注ぎ方による味の差が出にくい。さらに一般的なの豆だったり焙煎から時間が経った豆だったとしても味のアラが出にくいというメリットもある。淹れる人の技量と豆の質をカバーできる。

 また自分が安価なコーヒーミルを使っていて感じることなのだけれど、細挽きにしようとするほど微粉(細かいパウダー状の粉)が出やすく、そのままドリップしようとすると水を含んで粘土状になった微粉がお湯の流れを妨げて、ドリップ速度が大幅に落ちてしまい、過抽出になってエグめのコーヒーが出来てしまいやすい。かといって毎回微粉をふるい落とすのも手間がかかるし非経済的。粗挽きにしてしまえばそれを防ぎやすくなる。道具による味のブレも防げるのだ。

 粗挽きだとコーヒーの味わいが出にくいという問題は、5回に分けて少しずつお湯を注ぐことでフォローしている。さすがプロだけあって手抜かりがない。


 さらに4:6メソッドはあくまでテンプレートや「叩き台」のようなものであって、基本の淹れ方をベースに自分なりのアレンジをしていくことができるという。

 例えば、「もっと甘くしたい」「もっと濃くしたい」と思ったら、挽き目を細かくして抽出効率を上げ、さらに湯音を高めても。ただ、それでどっしりしすぎたら、注ぎ方を変えてドリッパーの速度を弱めたり、抽出時間を短くしたり、というようにアプローチしていくといいでしょう。[p114]

 まず基本の淹れ方を習得し、そこから自分好みの味わいや豆のコンディションに合わせた変化を加えていくことができる。まさに誰に対しても開かれたメソッドだと言える。


 「なぜ店や本によってコーヒードリップのレシピが異なるのか」という疑問にも、本書は答えてくれている。

 様々なレシピの狙いは、「抽出効率」というひとつのパラメーターをコントロールすることにある、という。

ハンドドリップのキモは、美味しい成分を十分に引き出すこと。ただ、これが難しい。抽出不足の「未抽出」は他の成分に比べて酸味が突出しすぎてしまい、抽出し過ぎの「過抽出」はネガティブな成分まで引き出してしまう。[116]

 もっと平たく言えば、コーヒーの成分を、多すぎず、かといって少なすぎず、ちょうどいい量だけお湯の中に溶け出させることで、美味しいコーヒーができあがる、という理論。と、自分はそう解釈した。

 とにかくコーヒーの成分をたくさんお湯に出したいのであれば、お湯が沸騰した鍋にコーヒーの粉を入れてグツグツと煮出すのが一番「抽出効率」が高いといえる。実際、ドリッパーやサイフォンが開発される以前は煮出して飲むのが主流だったそうだし、トルココーヒーなども煮出しコーヒーの一種。キャンプなどの道具が限られた環境で淹れるには適した方法だろう。

 それに対するハンドドリップのメリットは、抽出効率を比較的自由にコントロールできること(ペーパーの場合は後処理の簡単さも加わる)。「挽目」「湯音」「抽出時間」といった要素を調整することで、「ちょうどいい抽出効率」を狙うことができるのだ。その分難しいこともあるけれど。

 ハンドドリップにおける様々なテクニックは、「ちょうどいい抽出効率」を目指すための様々なアプローチであって、決して相互に矛盾するものではない、という。

 僕がコーヒーの世界に足を踏み入れた時、なんでこんなに、みんないってることが違うんだろう」と思いました。
 この人はこうやって入れているけど、あの人は違う。本によっても違う。
 一体、誰が、何が正しいんだろう?[p154]

 僕はまだまだ未熟で知らないことだらけですが、10年近くコーヒーに関わってきて、その答えが分かったような気がします。 
 それは、表面上の淹れ方が違っていても、やっていることは実はほぼ同じなんだということ。「美味しいコーヒーを淹れる」というゴールは一緒だけど、人によってそのアプローチが異なるだけなんだと思います。

 あらゆるレシピは、「美味しいコーヒー」という同じ山の頂上を目指して違う道を登っているようなもの、ということだろう。それはハンドドリップ以外の様々な抽出方法が存在することの理由とも言える。


 自分が持つ、コーヒードリップに関する悩みをかなりの程度で解決してくれた本書。他にもコーヒー豆の知識、バリスタがどのように豆を評価しているか、4:6メソッド以外の淹れ方など、様々な知識を読む人に授けてくれる。「コーヒーバリスタってなんなんだ」と思っていた自分も、そのロジカルさと情熱には素直に共感できるところが多かった。