ライムスター宇多丸のラジオ番組『アフター6ジャンクション』の放送内容を元に、2020年に発行された本。当時ラジオは聞いていたけれど読書をほとんどしてなかったので、読むのが今になってしまった。
時代劇の始まりから現代に至るまでの歴史をざっと概観できる。時代劇研究家である著者の「脳内時代劇マップ」の索引を、読むだけでインストールすることができる。そんな大変にありがたい本。
現代まで様々な作品に影響を与え続ける時代劇。ハリウッド映画は言うに及ばず、漫画では『ワンピース』『銀魂』など直接的なオマージュがある作品もあるし『NARUTO』の忍者描写も忍者映画の系譜にあると言える。海外製の名作時代劇ゲーム『Ghost of Tsushima』には画面を白黒にする「黒澤モード」が搭載されていたし、今年発売予定の『鬼武者 Way of the Sword』は主人公のフェイスモデルに若い頃の三船敏郎を起用している。
しかし多くの日本人にとって時代劇=お年寄りが見るもの、という固定観念があるのも確かで、考えてみれば自分くらいの平成育ち世代が一番そのイメージが強いかもしれない。おじいちゃんが居間のテレビで時代劇を見ている。それが日本の原風景。みたいな。
でもそれはあくまでごく一部の作品であって、本当はもっとスリリングでエキサイティングな時代劇の膨大なアーカイブあるんだよ、ということを本書は教えてくれる。
かく言う自分は、きょうだいが若い頃から昭和映画・ドラマのマニアで名画座などにも通っていて、テレビで一緒に時代劇を見ることもあった。市川雷蔵や勝新太郎が多かった。カツシンと若山富三郎の兄弟共演『座頭市千両首』の決闘シーンを見た記憶が本書を読んでよみがえった。座頭市が縄で引きずり回されるヤツ。
そのような、時代劇を網羅的に知っているわけではなく、乱読ならぬ「乱観」したわけでもない自分が、体系的に時代劇のことを理解するのに、本書はぴったりだった。
まず年代ごとの変遷から始まり、ジャンル、ヒーロー(キャラクター)、スター(役者)、監督、原作者、といった別々の観点から、それぞれ章立てて紹介していく。話の重複も多いが、そのぶん1つの歴史を立体的に把握できる。
かといって堅苦しい「お勉強」の本というわけじゃない。まずは作品を見て「カッコいい!」と感じるところから始めて欲しい、というのが本書のスタンス。そこから徐々に掘り下げていけば自然に時代劇のことを知ることができる。本書はその一助になることを目指している。本書を読んで、それから実際に時代劇を見て、そういえばあの本ではこんなことを書いていたな、と思い返して読み返す、というのが本書の理想的な「使い方」だろう。
確かに、自分が音楽やゲームなどのジャンルにハマる時も、「よし、このジャンルを好きになるぞ!」と考えて始めたわけじゃない。「この作品、いいな、カッコいいな」という出会いがあって、そこから自然と興味を広げていってジャンル全体の知識を深めていく。そういうものだ。
そしてカッコいい時代劇は今見ても誰が見てもカッコいい。静と動を活かしたアクション、濃厚な人間ドラマ、時代への批評などといった要素は、現代でも受け入れられる土壌は十分にあるだろう。むしろ自分たちよりも偏見のない若い世代のほうがその素地はあるかもしれない。2024年に真田広之が作った『SHOGUN』(未視聴)のような作品がより多く作られるようになったら潮目も変わるだろう。
さらに巻末にはガンダムの生みの親、富野由悠季へのインタビューも載っていて、モビルスーツの戦いがいかに時代劇の影響を受けているか、殺陣の迫力とロボットならではの動きを融合させた経緯など、これまであまり語られてこなかったガンダムと時代劇の関係性を垣間見ることができる。オトクな一冊。自分も時代劇を見始めたいな。まずはYoutubeの公式動画から始めようか。
