rhの読書録

読んだ本の感想など

文化系のためのヒップホップ入門 / 長谷川町蔵 大和田俊之

 正直に告白します。ずっとラップのことをよく出来たダジャレだと思っていました。ごめんなさい。

 と、そんな自分がヒップホップのことを知るべくこの本を読んでみた。するとなぜ自分がここまでヒップホップに興味がないかがわかった気がした。

 いわくヒップホップにおけるラップは、決められたテーマについていかに上手くラップできるかを競うコンペティション、つまり競技である、と。

 なるほど。要するにアレだ。お題に沿って575を作る俳句みたいなもんなんだな。そしてそれは同じ進行を繰り返しながら展開していく黒人音楽の歴史に根ざしている、と。

 逆に自分が愛聴してきたロックやポップスはオリジナル信仰に基づいている。作者個人の経験や知識、あるいは「魂」のようなものが、これまでのものとは全く異なるオリジナルな音楽を生み出す、という価値観。ロックが天才やカリスマを要請するのはそのため。

 しかしその意味でより平等主義的なのはヒップホップの方だと言える。決められたルールの中で仲間内の競争に勝ち、全国での競争に勝てば、よりビッグになれる。本書ではお笑い芸人との類似を指摘しており、それは例えば近年のCreepy NutsとEXITの接近などにも現れているのかもしれない。

 しかもヒップホッパーは地元主義の(日本で言うところの)ヤンキー志向が強く、ビッグになって得たマネーを現地の仲間に分配する思いやりもある。急によくわかんない環境団体に入れ込んだりする大御所ロッカーとは対照的だ。


 というように本書はヒップホップの成り立ちをその歴史と精神性から大変わかりやすく対談形式で解きほぐしていく。自分のようなヒップホップ弱者にとってとてもありがたい書となっている。

 特に第6部の「ヒップホップとロック」では我が意を得たりと膝を打ちまくリング。自分の人生観、人間観にすら思いを馳せましたよ、ええ。

 流石に固有名詞が多すぎて一読では把握しきれていないけれど、例えば似たような他の本を読んだ時に「あそこで出た名前だ!」となれるだろう。そのようにして知識は深まっていく。

 2011年発行の本であるため当然話は現代には及んでいないが、2018年と19年に続編が出ているとのこと。そちらもぜひ手に取りたい。