- 作者: 長嶋有
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/02
- メディア: 文庫
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ずっとブルボン小林名義の本や、長嶋有名義のエッセイを読んできた。しかし長嶋有の小説を読むのは初めてとなる。
前も書いたとおり、なんとなく人情話っぽいタイトルと、なんとなく女っぽい著者名がひっかかって、読むのを避けていた。
しかし実際に読んでみたらぜんぜん印象が違った。子どもの目線で、少し上手くいかない日常と、小さな、しかしまだ子どもである主人公にとっては重大であろう事件などを丁寧に描いている。
本書に収められている「サイドカーに犬」も、表題作の「猛スピードで母は」も、いずれも「両親の離婚」というテーマが共通している。
両親が離婚したら子どもはどうなるだろう。きっと傷つく。ではその傷について描けば、ウケる小説のいっちょ上がり、と普通の人なら考えるだろう。いや、僕だけかな?そもそも普通って何?まぁそれはおいとこう。
しかし話はそう簡単ではない。現実はもっと多様である。まず、「両親の離婚で子どもは傷つくはず」という決めつけ自体が、乱暴である。そして、傷、という言葉を使ってしまうと、見えなくなってしまういろいろなことがある。
長嶋有は、安易な決め付けや言葉による単純化をせずに、きちんと「出来ごと」を書こうとしている。
そのような「きちんと」さのおかげで、読者は子どもの感情のゆれうごきを感じて、ハッとしたり、クヨクヨしたり、うん、優しくなろう、と思えたりするのだろう。
人生には、大いなる救い、みたいなものは無いが、それでも日常を肯定することはできる、というようなことを言いたくなる。思いたくなる。そんな小説。