rhの読書録

とあるブログ書きの読書記録。

国語辞典を食べ歩く / サンキュータツオ

 国語辞典に収録された「食」にまつわる言葉を、「小型国語辞典ビッグ4」である岩波、三省堂、新明解、明鏡を中心に、さまざまな辞典を比較しながら紹介していく本。

 お笑い芸人であり大学教授でもある著者が出演するラジオ番組「東京ポッド許可局」などを昔から聴いていたこともあり、手に取った。


 辞書を愛好し、自ら辞書の編纂にも関わるいわば「辞書グルメ」の著者が、辞書の味わい方をわかりやすい語り口で教えてくれる。

 知ってる言葉の知らなかった使い方を知れたり、辞書ごとの傾向を比較したり、改定による変化を比べて言葉の歴史に思いを馳せたり。

 蕎麦の語源が「稜角を持つ」ことを意味する「そばだつ、そびえる」であることだとか、「ロールケーキ」は和製英語だが似たような「スイスロール」は実は英語でも使われている言葉だとか、シンプルに面白い知識も学べる。

 とにかく格式高いが時にそっけなくも見える岩波、妙に食べ物に詳しい明鏡など、辞書ごとの個性も味わえる。

 なお、冒頭から「ハンバーグ」「すし」「カレー」などが取り上げられていることもあり、読んでいてヒジョーにお腹が空くのでそこは注意が必要である。夜中に読んだせいで大変でした。


 「辞書を読むと面白い」なんて話を聞いたりもするが、実際にどうやって読めばいいのかわからない、というような人にオススメしたい本。

 かく言う自分も以前、著者の影響で古本屋で「新明解国語辞典」を買ったりしてみたが、あまり開くこともなく本棚の肥やしになってしまっている。思い起こせば小学生の頃、「辞書を引くのが早い」ということで一瞬だけ祭り上げられたことがあったが、それも遠い昔のこと。

 ところで今、上の文章を書きながら新明解で「肥やし」を調べたら、

 ㊀肥料㋥その当座は不快にさえ思えていたのに、結果としてその人の成長に効果をもたらした経験。

 という意味しかなく、「本棚の肥やし」「タンスの肥やし」みたいな「使わないのに場所を取っているもの」という使い方は見当たらなかった。比較的新しい使い方なのだろうか。

 と、こんな風に辞書を引くことの面白さに、本書は立ち返らせてくれる。

 もうずいぶん前から「辞書なんてネットで調べればいい」という時代になってしまったのは揺るがし難い現実ではあるけれど、その辞書を利用できるのは頑張って編纂してくれている人のおかげであることを忘れてはいけない。そういうありがたさもしみじみと感じることができる優れた本だった。子ども向けの本としても安心して読ませられそう。