rhの読書録

読んだ本の感想など

星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン

 とにかく人気の高いSF小説、との評判を聞き、いずれ読みたいと思っていた作品。

 一度は図書館で借りもしたのだが、生活タイミングと合わず読み切ることができなかった。

 ちゃんと買って積読して、今なら読めそうだという頃合いを見計らって読み始め、ようやく読了することができた。

 なるべくネタバレを踏まないように気をつけていたのだが、ストーリー展開が某インディーゲームが本作に似ている、という情報だけは知ってしまっていた。実際に読んだら確かに似ていた。もちろんそのゲームの名前はここでは挙げない。

 以下、ストーリーの核心には触れないけど、ネタバレありです。


 月面で発見された5万年前の遺体。そこから始まる壮大な「謎」と、その解決が描かれる、ミステリ色の強い宇宙SF。

 その謎解きがどのようなものであるかは散々語られているだろうし、読めばわかることなので書かないが、自分が本作を読んで考えたのは、「なぜあのような謎解きが構想され、小説として執筆されたのか」ということ。


 最終的に話は「人類とはなにか」というテーマに帰着する。隠された現生人類の来歴が明かされ、読者は宇宙的なロマンを感じる。もちろん作者も意図してそこに宇宙的ロマンをこめたのだろう。

 なぜそこにロマンが生じるかといえば「人類が宇宙的な存在だったらいいのになぁ」という「人類史の理想」が根源にあるのだろう。

 本作の舞台は2020年代。科学技術の発展とそれにより生じた物質的な豊穣により、人類は互いに争うことを止め、協力して宇宙開発を行っている。この設定も明らかに「人間社会の理想」を描いている。

 主人公のハントは優秀な原子物理学者であり、国連宇宙軍に抜擢されて宇宙規模の謎解きのリーダー役になる。常にものごとを客観的・多角的に見て、問題と統括的に解決する能力を持っている。科学主義における理想的な理性を持ち合わせた人物だ。

 なぜ人類は危険に立ち向かい謎を探求しようとするのか? という点について、終盤で作中のある科学者が説明を試みる(よくよく読むとあまり科学的な説明ではないのだが)。宇宙規模の壮大な「創世神話」として、スケールが大きくて夢のある話ではある。

 人類史の理想。人間社会の理想。人間的理性の理想。創世神話の理想。本作には様々な「理想」が描かれている。それは第二次世界大戦の後の、平和的科学主義の時代の理想であり、戦後にブームとなったSFというジャンルが持っていた理想の1つだったのだろう。というのは平成育ちの自分の想像であるが。


 率直な個人的意見としては、少々理想主義すぎやしないか、と感じる。これは時代的な感覚のズレと言うよりも、自分個人の性向の問題だと思われる。もし自分が、邦訳された1980年代に本を読める年齢になっていて、本作を手に取っていたとしても「理想主義的だなぁ」と感じて、太宰治や安部公房を読んでいたと思う。根が悲観的なのである。

 本作の舞台は2020年代後半。そこで描かれる理想と比べてしまうと、現実の2020年代は目も当てられない。科学主義はグダグダになって疑似科学が問題を生み、異なる宗教が今なお闘いを続けている。結局、金持ってて好き放題できる人が偉い、みたいな世の中になっているように、少なくとも自分には感じられる。

 いや、こういう後出しジャンケンが作品の評価とは本来無関係なことはわかっている。現実の2001年とは全く別の世界を描いていても、『2001年宇宙の旅』は名作だ。考え方を変えよう。

 自分にとって本作は、現実からは遠い夢物語ではあるが、別に全ての物語が現実と関わりを持たなければいけないというわけではない。理想を理想として堂々と描く。そういう小説があってもいい。

 それを踏まえて本作の壮大な世界設定と謎解きを眺めてみれば、そのクオリティの高さに素直に感嘆できる気がしてきた。

 はるか昔に生きていた者たちの営為と、現代を生きる者の人間的理性が、宇宙の謎を解き明かす。その純粋な「ワクワク感」は初出から半世紀近く経っても色褪せていない。とにかくスケールのでかい話を読みたい人はぜひ読んでみて欲しい。