rhの読書録

読んだ本の感想など

ぼくらの文章教室/高橋源一郎

ぼくらの文章教室

ぼくらの文章教室


 文章についての文章を書く。簡単そうだが、実は極めて難しい。実際、今現在僕も、「文章についての文章についての文章」を書こうとして、パソコンの前で呻吟している。
 とりあえず、できるところからやってみよう。
 この本で高橋源一郎は、いい文章を取り上げ、その文章のどこがいいのかを、丁寧に考察していく。
 似たような本を著者は何冊も書いているが、そのどれもが興味深く、面白い。
 なぜだろうか。
 考えられるのは、とにかく「ふつうじゃない」ということ。
 「文章教室」とか「小説教室」という体なのに、全然教室的なことをやっていないところが、まずふつうじゃない。
一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))

一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))


 「教科書」も「テスト」も無い。あるのは、いい文章と、その文章のいいところ、その二つだけ。
 そこから先は、読んだ人が自分で進めばいい。とても自由な教室だ。
 さらに、その「いい文章」がふつうじゃない。
 自殺したおばあさんの遺書だったり、AKB48と走れメロスのパロディ小説だったり、ボケた大作家の小説だったり、スティーブ・ジョブズのスピーチだったり。そのどれもが、世間的に名文と言われているものとはほど遠い。
 もちろん、高橋源一郎は、それらを面白おかしく取り上げているわけではない。
 一見異端だったり、一般的な「文章」とは異なるそれらは、実は文章に取って非常に大切な何かを教えてくれる。そのことを著者は懇切丁寧に説明、というべきか、説得、というべきか、とにかく大切なことの大切さを僕らに教えようとしてくれているのである。
 だからどうした、と通り過ぎてしまうことは簡単だ。むしろそっちの方が楽に生きられるのかもしれない。仲間とつるんで楽しく騒いで、ついでにその模様をFacebookにアップロードでもしている方が、よっぽど楽しいかもしれない。
 でも、それじゃあ足りないよ、という人がいて、そういう人の一部が文章を書いて、それをまた別の人が読んで、これはなんだかわからないけどスゴいぞ、と思う人がいて、また別の文章を書く。そしてその文章が、実は現実以上に現実を映し出していたりする。それってすごいことだと思いませんか?