rhの読書録

読んだ本の感想など

あ・だ・る・と/高橋源一郎

あ・だ・る・と (集英社文庫)

あ・だ・る・と (集英社文庫)


 「アイエエエエ!?ナンデ!?」と、読むと思わず叫びたくなる。それが高橋源一郎の小説の特徴である。
 それにしても、この小説はスゴイ。ほぼ全編が、AVの撮影現場の描写である。「文学的な抒情的文章表現」みたいなものも特に出てこない。内容も、SM、スカトロ、老女と、アブノーマルなものばかり。ついでに言えば、そんな本が「主婦と生活社」から出版されているというのも驚きである。
 なんでも高橋源一郎は、実際のAV撮影の現場に密着取材して、それを元にこの小説を書き上げたそうである。実在のAV女優の名前も出てくる(「トヨマル」とか。古いので僕は知らなかったが、ググったら出てきた)。「大正生まれのAVギャル」シリーズも実在する。悪夢ではなく現実として。いやはや。
 月並みな言い方をすれば、この作品は、作者のアダルトビデオというものに対する、愛の炸裂、なのだろう。
 しかも、ただの投げっぱなしな炸裂ではなく、結末の展開において、作者は読者を現実に引き戻そうとする。「俺らが日々見ているAVって、いったいなんなのだろう」と、これまた月並みな言い方だが、読者に考えさせようとするのである。少なくとも、僕の中でのAV観は、この本のせいでガラリと変わってしまったと感じる。具体的にどこが、というわけではないけれど。
 傑作であると同時に、問題作でもある。この本をうっかり知り合いの女性に見せた場合、セクハラで訴えられても当方としては一切の責任を負いかねる。あと、特に単行本のカバーは、ストレートに18禁なので、取扱に注意が必要。電車内で読むなら文庫版をおすすめする。って、タイトルの時点でダメか。
 それから、つい最近出たユリイカ七月号に、川上弘美と高橋源一郎の、性と小説にまつわる対談が載っている。個人的にタイムリーな感じ。
ユリイカ 2013年7月号 特集=女子とエロ・小説篇

ユリイカ 2013年7月号 特集=女子とエロ・小説篇