rhの読書録

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もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら / 星井七億

もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら

もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら

 人気ブログ「ナナオクプリーズ」の書籍化。「桃太郎」や「走れメロス」のパロディ小説集。表題作「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」はこちらから読める。
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 ほぼ全編がパロディ短編ということで、少々「飛び道具」感のある一冊となっているが、人気ブログの書籍化だけあってネタのクオリティは高い。

 こういったパロディをやる場合、パロディ元に対する知識や愛が無ければ面白いものは出来上がらない。たとえ読む人がパロディ元を知らなかったとしても、ディティールやニュアンスに宿る「強度」みたいなものが生み出すおかしみは必ず伝わる。「細かすぎて伝わらないモノマネ」がマニアックすぎるネタにも関わらず広くウケるのはそのためだ。

 逆に中途半端な知識でパロディをやると、パロディのパロディみたいな、「神無月がモノマネする武藤敬司のモノマネ」チックなちょっとお寒い感じになってしまう。そういうやり方で面白くできる人もいるのかもしれないが、おそらくよほどのプロフェッショナルでなければムリだろう。

 その点本書は、爆笑問題の太田光はなぜか有森裕子をイジるのが好き、という長年のラジオリスナーでなければ知らないような小ネタがさり気なくちりばめられていたりして、作者の愛と本気度が伝わってくる。

 特に「百合だらけの桃太郎」においては、いわゆる「百合萌え」である(とTwitterなどで公言している)作者の百合愛が炸裂しており、ムダに(褒め言葉)イキイキとした文体が冴えており、笑いを誘う。

 細かいことを言えば、ある一遍におけるヤクザ映画のパロディが少々雑だったのが気になった。少なくとも菅原文太が主演するようなヤクザ映画の主人公は、本作に書かれたような「単なる乱暴者」じゃないと思うんだけど。

 また、とある暗号を使って書かれた一遍があるのだが、文字の間隔が行ごとにバラバラで、非常に解読しづらかった。解読して楽しむタイプのネタでは無いのだが、こういうくだらないネタだからこそ、真面目に作りこんで欲しいところ。

 しかしそんなのはわりと些細なことである。すでに作者のブログを読んでいる人なら、そのセンスの高さがおわかりであろう。本書も同様に面白く読めるハズだ。

 個人的にはボーナストラックの「未来のDQNネーム事情はこうなる」を久米田康治作画でマンガ化して欲しいな、と思った。どこか似たテイストを感じたので。

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 ところで作者のペンネーム「星井七億」はタレントの「星井七瀬」のパロディなんだろうか。百合的な意味で。