主に筒井康隆の近著という理由で手に取った。
蓮實重彦のことはあまりよく知らなかった。
どちらかというと、堅苦しい文章で小難しいことを言うめんどくさそうな年長の批評家、というイメージだった。
自分の中での分類としては柄谷行人などと同じ「箱」に入ってる、というか。実際はだいぶ遠いんだろうけど。
『伯爵夫人』の受賞会見でのアレコレもそんなイメージを補強した感がある。
対談や往復書簡のパートでは、大江健三郎の話題が半分くらいを占めている。
本書そのものが、著者二人の大江健三郎へ当てたファンレター、という印象すらある。
しかし自分は大江健三郎の作品は初期の数作しか読んでいない。
その他にも、戦後の小説・映画・演劇の話題が多く出てくる。
平成に育った自分にはわからない話ばかり。
でもわからない話はわからないものと割り切って読めばそれなりに悪い読書体験ではなかった。
おじいさん同士が楽しそうに話しているのを傍で聞いているような気分、というか。
まして名うての書き手である二人によるそれであれば、読んでいて心地よくないハズもなく。
わからないだけでなく面白い話もあった。『文学部唯野教授』に対する二人のスタンスとか。テリー・イーグルトンの評判とか。
タイトルに『VS.』、がついているものの、特に対決要素はない。80オーバーでバチバチに論争し合ったりしてたら元気すぎるとしか言いようがないが、さすがに読者もそれは臨んでいないだろう。
「対」ではなく「VS.」なのが、なんとなく好ましい。
本書で自分の中での蓮實重彦のイメージが変わったか。
堅苦しい、という感じではなくなった。めんどくさそう、というイメージはあまり変わらなかった。めんどくさい方が面白いこともあるから助かることもある。