rhの読書録

読んだ本の感想など

筒井康隆入門 / 佐々木敦

 筒井康隆を読まなければなぁ、という気持ちが常にある。

 なぜかといえばもちろん筒井康隆はスゴイからである。

 どの小説を読んでも面白い。『虚人たち』のような実験的な作品。『文学部唯野教授』のように文学理論を解説する作品。はたまた『時をかける少女』のような青春ジュブナイル作品。どんなジャンルも縦横無尽に書きこなす。近年、というか今現在も『残像に口紅を』がバズり、文庫売上の上位に位置し続けている。小説家に限らず様々な人々からリスペクトを集めている。

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 しかしそんな素晴らしい筒井康隆作品をバリバリ読んでいるかというと、そこまでではない自分がいた。

 作品ごとにジャンルが違いすぎるので、タイトルと概要だけではどんな作品かわからず、なんとなく手を伸ばしづらい。あまりに選択肢が多すぎて、どこから手をつけていいのかわからない。どれが自分にとって読むべきかわからない。いや、全部読めばいいじゃないか、という考えもあるが、いかんせん作品数が膨大すぎてちょっと辛い。

 なにかに似ているな、と思ったが、アレだ。動画サブスクリプションサービスに登録した時。古今の名作が並んでいるが、どれから観ていいのか分からず、定額だからいつか観ればいい、と後回しにし、結局全然観ない、という事態。

 いわば小説界の「一人ネットフリックス」。そんな作家は世界的・歴史的にも他に見当たらない。しかしそれがゆえに未読者にとってはハードルが高くなってしまっている面もあると思う。誰が悪いわけでもなく。

 自発的に本を選んで読むようになって以来、そんなことを感じていた自分が、『筒井康隆入門』というタイトル、筒井康隆自身による帯文、そして著者欄にあの『ニッポンの文学』『ニッポンの思想』の佐々木敦の名が記されているのを見て、ほとんど本能的に手に取りレジに持っていった。

 そして結論から言えば、もっと早く読んでおきたい本だった。


 筒井康隆が発表した小説を、おおよそ発表順に取り上げ、解説していく。さすがに膨大すぎて全作品とはいかないが、長編はほぼ全作を網羅しているとのこと。そこから筒井康隆作品の全容がうっすらと浮かび上がってくる。

 本当は読後感としては「かなりクリアになる」と言いたい気持ちはあるのだが、いかんせん作家としての全貌が宇宙的に遠大すぎて、そう言うのがはばかられる。「筒井康隆がわかった」などと言える人はおそらくどこにもいないわけで。


 虚構(フィクション)というテーマが本書の一つの軸になっている。様々な作品で、虚構のあり様を実験してきた筒井康隆。演劇という独特な虚構性を持った表現ジャンルをバックボーンに持つことが、作風に影響しているのではないか、と著者は推察している。

 2014年に著者の佐々木敦が提唱した「パラフィクション」という概念に興味を示した筒井康隆は、パラフィクションを全面的に取り入れた短編『メタ・パラの七・五人』、そして長編『モナドの領域』を著す。その顛末には、文学の未来への希望を垣間見える。


 今後は本書を片手に筒井康隆作品を当たっていきたいと思っている。その意味で本書は自分の読書人生を変えた一冊になる予感がしている。