自分が子供の頃から、アニメキャラの声としてその声を聞いていた、あの池澤春菜が文筆活動をしている、という情報はラジオ『アフター6ジャンクション』などを通して文字通り耳に入ってきていた。
父の池澤夏樹との対談集の中で、現在小説を執筆中であることが語られていたが、その初めての短編集が出たということで読んでみた。
とにかく著者が好きなものを詰め込んだ作品集、というのが第一印象で、そのウキウキ感、高揚感と同時に、小説を書くことの困難に立ち向かおうという、いい意味での「力み」が伝わってくる。多分まだ詰め込みきれてないんだろうなという感触もある。
中でも最初の短編『糸は赤い、糸は白い』は、そのむき出しの「キノコ愛」が、それこそキノコの菌糸のように充溢していて、読後に強い印象が残った。
「SF」と「少女的な感性」が混ぜ合わさっている、という言い方でいいんだろうか、自分はそのどちらにも疎いのだけれど、その2つが自然に一体となっていることに、個人的には新鮮味を感じた。
いわゆる「ネットオタク」的な語りを駆使した作品だったり、著者自身の声優という職業が反映されるエピソードがあったりと、表現の幅が広く、かと思えば表題作の『わたしは孤独な星のように』は、ストレートな宇宙SFに出会いと別れの切なさが盛り込まれていて胸を打った。
「SFって、いろいろなものを拡張しようとする試みなんだな」ということを本書を読んでしみじみ感じ入った。空間、時間、肉体、精神、生活、愛。それらのさらにありうるかもしれない形を、科学というフィルムを透してスクリーンに映写する。
そういうことは、体感としては、たとえば子供の頃に手塚治虫のSFマンガとか星新一のショートショートを読んでいたときから感じていたことだと思うけれど、本書をきっかけに初めて自分の中で言語化されたのかもしれない。
そして本書に漂う「滅び」の雰囲気は、今の現実の雰囲気と地続きで、そのことが本書を今の現実としっかりつなぎ合わせていて、ただの絵空事ではないなと感じさせる。それは良い小説の1つの条件であると自分なんかは思うのだけれど、いかがでしょうか。