- 作者: 島田雅彦
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1995/03
- メディア: 単行本
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
自分が読んだのは「流刑地より愛をこめて」の単行本だったが、後に「やけっぱちのアリス」に改題されたそうな。
学園物語。であるが、常に不吉な予感が漂っている感じ。
前に保坂和志が「文章として書かれたものは常に不吉を予感させる(だから不吉の無い作品を書いた)」みたいなことを言っていたが、こういうことだろうか。
登場人物は皆コンプレックスを抱えている。中国女に飼われる蔦麻呂。蔦麻呂に、そして金に依存しているかに見える中国女。
母と兄の依存関係によって家庭から疎外されている帰国子女アリス。不在の「ねえや」を溺愛し、その痕跡たちと傾いたアパートで暮らす小夜吉。男を憎悪しアリスを手中にせんと「極道」のように学内の政治と権力を振りかざす花代。
そして学内には排他的ムードが漂い、それは外国からの出稼ぎ労働者が行き来する街の在り方と表裏一体であるようにも見える。
蔦麻呂とアリスの二人が迎えた結末は決して明るいだけのものでは無い。
しかし彼らは逃げる。なぜなら、「逃げた先が居場所になる」から。
僕らの現実とダブって見える閉塞した世界は流刑地。例え流刑地から逃げ出したとしても、その先にあるのはまた流刑地である。そんな世界で自由が可能であるとしたら、それは逃げることそのものの自由である。そんな風に感じた作品。
佐藤裕也のように疾走感と熱のある作品もいいけれど、島田雅彦のような小説に対する偏執(賛辞)に充ち満ちた作品もまた素晴らしいと思う。