- 作者: ブルボン小林
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/04/10
- メディア: 文庫
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ブルボン小林によるマンガにまつわるコラム。コラム一本につき、取り上げているマンガのコマが二、三個載っているので、パラパラとめくるだけでも楽しい。
上質なコラムの特徴は、読者に新たな「ものの見方」を提示することであり、本書の各コラムはどれもがそれを成し遂げていて、しかも軽妙で読みやすい。デキるコラムの見本のようである。
『ドラえもん』を愛好する人は日本中いやさ世界中にいるだろうが、コミックス上で描かれたスネオの自慢を全てリストアップしたのは、本書(※文庫版のみ)が世界初だと思われる。そのあたりからも筆者が持つ観察眼の独自性が伺われるというものである。
(と思っていたらニコニコ大百科に『スネオの自慢話一覧』という項目が存在した。ざっと見たところどちらがどちらを引用したという感じではなさそう。つまりスネオの自慢に注目して同じことを考えた人間がこの世に少なくとも二人いたということになる。スネオの自慢が持つ魅力がなせるワザであろう。)
他にも、『孤独のグルメ』のゴローちゃんを「オタク的とも言える内面なのに、健康的な食欲と頑強な肉体を持ち合わせる。つまり内面と外面に異様なギャップがあるが、それをギャグにしたマンガではない」と評していて、孤独のグルメがネット中心に人気が出た理由がわかった気がした。
取り上げるマンガのチョイスがメジャーだったりマイナーだったりしてバランスがよいのもよい。『美味しんぼ』『孤独のグルメ』『臨死!!江古田ちゃん』『デトロイト・メタル・シティ』など。目次や巻末の索引を見ればどのような作品が登場するかわかるので、気になる人はぜひ一度本屋でチェックしてほしい。
あらゆる娯楽作品や芸術作品がそうであるように、マンガの楽しみも人それぞれである。一読してつまらないと思ったマンガでも読み方次第で面白くなりうるし、世間で面白いとされているマンガにも新たな読み方が隠されていたりする。「神」と「クソ」に二極化しがちなネットのレビューでは味わえないマンガの魅力が、本書には詰め込まれている。すごくいい。
余談だが、ブルボン小林は長嶋有のペンネームである。長嶋有は「サイドカーに犬」「猛スピードで母は」などの純文学小説を書いている。正直言って自分は、これらのタイトルだけを見て「人情話に違いない」と勝手に思い込み敬遠していたのだが、よくよく調べてみたらそうでもないらしい。今度読んでみようか、と思い始めている。