- 作者: 奥泉光,香日ゆら
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2015/04/22
- メディア: 単行本
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小説は、自由に読んでいい。自由といっても、裸で読むとか、富士山頂を逆立ち歩きしながら読むとか、そういう意味での自由では無い。それではただの変人である。まぁ、変人でもいいんだけど。のっけからぼくはなにを言っているのだろう。
小説は、途中から読んでもいいし、最後のページから読んでもいい。1ページだけをずっと眺めていてもいいし、物語を無視して文章だけを楽しんでもいい。誰も怒らないし誰も咎めない。本人が楽しければそれでいいのである。
しかし自由に読むためには、「小説とはこう読むものである」という固定観念が存在する、ということを知らなければならない。己を縛る鎖を引き千切るためには、鎖の硬さや形状を知らなければならないのと同じように。
本書「夏目漱石、読んじゃえば?」は、夏目漱石の小説を通して、多くの人が小説というものに対して抱いている固定観念について、そしてその固定観念から自由になる方法について書いている。
「吾輩は猫である」は全部読まなくてもいい、とか、「坊っちゃん」は暗いヤツだ、とか、「こころ」は傑作だと思わなくていい、というように、普通の人が「夏目漱石」あるいは「文学」というときに想像するのとは、ちょっと違うことが書かれている。しかしそれらは、小説そのものを虚心坦懐に読めば、誰にでもわかることだったりもする。
普通の人は、夏目漱石を、あるいは文学を、難しくて高尚なものだと思っている。本当は、文学にだって色々ある。笑えるものもあれば、泣けるものだってある。面白がって興味を持って読めばいいのだ。勉強などと難しいことは考えずに。
そういうことを、14歳でもわかるように易しく書いてあるこの本は、子どもだけでなく、大人が読んでも面白く興味深い。漱石、読んじゃえば?
そして小説は、人生を通じて読み続けることで、人生に深みや彩りをもたらしてくれる、こともある。お気に入りの音楽や、履き慣れた革靴のように。
奥泉光は小学生の頃から現在まで、ずーっと夏目漱石を読み続けているそうだが、ぼくにも、折に触れて読み返したくなる小説がある。例えば「こころ」や「ノルウェイの森」とか。ベタ過ぎるけども、好きなんだからしょうがない。
「小説は人生の役に立つか。それはわかりません。けれども、人生は小説を面白く読むのに役に立つ。」と、著者は言う。
ぼくがそこになにか付け加えるとするなら、「小説のある人生は、小説の無い人生よりもずっと深く豊かなものだ」といったところだろうか。ちょっと青臭いだろうか。