rhの読書録

読んだ本の感想など

マインクラフト 革命的ゲームの真実 / ダニエル・ゴールドベリ (著) リーヌス・ラーション (著) 羽根由 (訳)

 人気ゲーム「マインクラフト」の誕生と成長、そしてマインクラフトを作った男「ノッチ」ことマルクス・パーションの来歴を記したノンフィクション。

 こういう本は大抵、成功の秘密を説く! 的なビジネス書だったり、対象を過度に賛美するヨイショ本だったりすることが多いけど、本書はあくまでもノッチとマインクラフトの来歴を俯瞰的にかつ冷静に書いているので、読んでいて嫌味がない。

 マインクラフトというゲームについては知っているが、マインクラフトというゲームがどのように作られたのか、ということは知らない人が多いだろう。そういう人にぜひ読んで欲しい本だ。

 例えばノッチがスウェーデン出身だということ、ゲーム好きでプログラミング好きの、頭脳明晰だが内向的な少年だったということ、いくつかの職を経た後、たった一人でマインクラフトを作り上げたということ、イェンスというプログラマー(ファンの間では「jeb」として有名)が「イカ」を作ったことでノッチに認められマインクラフトの開発に加わったことなど、日本のプレイヤーがあまり知らないことであろうことがたくさん書かれている。

 他にも、スウェーデンはブロードバンドの普及率が高く、いわゆるIT国家であり、ゲーム開発も盛んであるということも初めて知った。マインクラフトの販売元であるモヤングの他に、「バトルフィールド」や「ミラーズエッジ」を作っているDICEという会社もスウェーデンにあるという。


 マインクラフトは確かにかなり独創的なゲームではあるが、他のゲームから様々なアイデアを借用して作られたゲームであることもまた確かだ。

 ノッチがハマったゲームとして本書では「ドワーフ・フォートレス」や「ローラーコースタータイクーン」、「ダンジョンキーパー」などの名が挙げられている。

 「世界の全てがブロックで構成されている」という最も根本的なアイデアですら「インフィニマイナー」というゲームにインスパイアされたものであることは、本人やファンも認めていることである。

 しかしだからといってパクリだとかオリジナリティが無いとか言う人は誰もいない。他のあらゆる表現行為がそうであるように、個々のアイデアや技法にまで独占権を認めてしまったら、活発な表現活動が行われなくなってしまうからである。

 特にゲーム作りにおいては、優れたアイデアを出すことよりも、そのアイデアをいかにゲーム性に落としこんでプレイヤーを楽しませるかということが重視されている。

 その点でマインクラフトが優れていたのは、「ブロックを使ったものづくり」というアイデアをゲーム化したところにあるだろう。もちろんデジタルゲーム以外の分野では「レゴブロック」という前例があるわけだが。

 また個人的には、登場するブロックが無機質なものではなく、木や土や石などの自然物を模したものであることも重要なポイントだったと思う。これによってプレイヤーは、あたかも未開の地を開拓しているような感覚が得られるからだ。

 ブームの要因として、本書では、製作者とプレイヤーが相互に意見交換できる環境があったことが挙げられているが、言語の壁がある日本でも爆発的にヒットしたことを考えると、やはりゲームデザインそのものに主たるヒットの理由があったのではないかと思える。


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 マインクラフトがもたらした影響はとても大きく、日本でも、スクウェア・エニックスから「ドラゴンクエストビルダーズ」というブロックゲームの制作が発表されたりしている。またもうすぐ任天堂から出る「マリオメーカー」も、マインクラフトから間接的な影響を受けているように見える。

 近年では教育現場でのマインクラフトの活用が進んでいるという。製作者が作った道筋を辿るだけ、という側面が強かった従来のゲームと比べて、プレイヤーの自発性・創造性を必要とするマインクラフトは、ゲームが持つ新たな可能性を広げる存在になりうるかもしれない。


 ノッチと、彼の元同僚であるヤーコブがモヤングを立ち上げる時、ビジネスの知識を持っていなかった二人のサポートをする形で社長になったのがカール・マンネであった。

 現代のインターネット環境があれば一人でゲームを作ることは可能かもしれない。しかし会社を立ち上げてビジネスとしてゲームを作り続けるためには、やはりそれ相応のノウハウと人材が必要となるのだろう。

 マインクラフトの成功によって大金が転がり込んだノッチだが、そのことによって新たな問題を抱えることになった。一夜にして億万長者になる人が少なくないシリコンバレーなどには、突然お金持ちになった人の精神をケアする専門家が存在する、という話を本書で知って驚いた。

 お金によって道を踏み外すことなく、若くてお金のないゲーム開発者を支援するなどしていたノッチだったが、結局はマインクラフトの開発を降り、自らの手で新たなゲームを作る道を選んだ。


 本書が「いい話」たり得ているのは、ノッチが「たった一人で」マインクラフトを作り上げたという点、そしてそのことにより、既存の大規模化・工業製品化したゲーム制作への強烈なアンチテーゼを示したという点にある。

 しかし彼がマインクラフトで多大な成功を収めたのは、彼自身の資質、環境、そして時の運に恵まれたことが大きい。だから彼のやり方をそのままマネしたとしても、必ず上手く行くとは限らない。当たり前の話だが。

 そのことは、ノッチが未だにマインクラフトに続くヒットゲームを作れていないことが証明している。この本は、そのへんのことにもちゃんと触れている。

 本書の発刊後に、モヤングはマイクロソフト社に買収されることとなった。インディーゲームの一つに過ぎなかったマインクラフトが、世界一の企業の傘下に入ることで、どのような変化を迎えるかは未知数だ。

 いずれにせよ、ノッチのプログラミング愛、ゲーム愛が枯れてさえいなければ、彼が作る新しいゲームを楽しめる日が来るのはそう遠くないハズである。