rhの読書録

読んだ本の感想など

鬱ごはん / 施川ユウキ

鬱ごはん(1) (ヤングチャンピオン烈コミックス)

鬱ごはん(1) (ヤングチャンピオン烈コミックス)

 なぜ人は食事をするのか? そりゃお腹が空くからに決まってる。しかしもちろん食事とは単なる栄養摂取ではなく、社会的・文化的な営為でもある。

 毎日家族と食事をしていると、そこに習慣が生まれる。僕自身、日常的に料理を作ってくれる家族がいるので、食事について考えなければいけない時間は大幅に短縮されている。ありがたいことに。

 しかし一人暮らしの人は、自分で自分の食事を全て決めなければならない。マネージし、コーディネートしなければならない。なぜ横文字を使いたくなったのかはよくわからない。

 このマンガの主人公鬱野たけしのような自意識過剰の男の場合、その食事風景もまた、自意識過剰な感じになってしまうことは避けられない。

 自意識過剰な男の自虐あるある、みたいな小説・マンガは昔から多いが、このマンガのように、そこに食事という要素を絡めたものは珍しいかもしれない。

 自意識過剰な人は、目的に向かって淡々と行動するということがうまくできない。なにかするたびに細かいことが気になってしまい、それに心がとらわれ、そのせいで動きが不自然にぎくしゃくしてしまう。

 このマンガを読んで爆笑するか、それともしみじみと共感するかどうかが、自意識過剰か否かの分かれ目だと思う。

 僕など最近は、自意識過剰になるほどの敏感さも無くなってきたので、読みながら「もっと普通にちゃんとやれよ」とつい思ってしまったりしたのが、なんだか寂しくもあるようなよくわかんないような感じだ。よくわかんないことを言って申し訳ない。

 リア充でなくては生きられない、絆がなくては生きられない、そんな風潮が今の世の中にあるように感じるのは、僕の中にもまだ自意識過剰さが残っているせいだろうか。

 リア充でなくても、絆がなくても、人は生きていくし、生きるためには食べなくてはいけない。このマンガは、そんな現実を、目を逸らすこと無く見つめたマンガなのかもしれない。ほんとうの意味で現実を見つめている作品は、とても稀有で貴重なものである。