rhの読書録

読んだ本の感想など

失踪日記2 アル中病棟 / 吾妻ひでお

失踪日記2 アル中病棟

失踪日記2 アル中病棟

 『失踪日記』の続編。前作を面白く読んだ人なら、きっと今作も面白いはず。
失踪日記

失踪日記

 『失踪日記』の方にも、「アル中病棟」というタイトルで、アルコール依存症で入院してから数週間の出来事を描いた短編が入っていたが、本作『失踪日記2 アル中病棟』は入院から退院までの全期間を描いた長編。一部エピソードや登場人物が被っているのでリメイクとも言えるだろうか。

 『失踪日記』の、失踪してホームレスになったりガス会社で働いたり、という話と比べると、どうしてもインパクトは薄くなりがちだが、そのぶんマンガとしての出来がいい(なんかエラソーな言い方だけど)。絵が丁寧で細かいし、コマが大きくなっていて背景も描き込まれているので迫力がある。そして、登場する女の子・女性がより可愛い。ここ重要。

 散々言われていることだろうけど、失踪日記シリーズのスゴイところは、一種の極限状態を描いていながら、悲壮感のようなものが微塵も感じられず、一貫したコメディタッチであり、むしろ「ほのぼの感」さえあるというところ。

 普通の人は、すごい経験をしたら、「こんなにスゴイことがあったんですよ!」と声高に、大げさに言いがちなのに、このマンガにはそういった押し付けがましさがまるで無く、どちらかというと「こんなこともあったね」的な、突き放した感じがある。だからこんなに読みやすいのだろう。

 そこには勝ち組・負け組みたいな概念も、どん底の「ど」の字もない。ある意味で虚無的であり、無頼派的でもある。なにしろ作中で「酒で身も心もボロボロになって破滅していくのってむしろ美しくて潔いと私は思ってるんですけど」と語っている。なのに絵柄は可愛い。そのギャップがなんとも言えない。

 登場する患者たちも、実物を見たら「ダメ人間」としか思えないであろう人たちばかりなのに、吾妻ひでおの漫画を通すと、愛らしくさえ見えてくるのだから不思議である。

 もし僕が「アルコール依存症についての本を紹介して」と言われたら、以前だったら中島らもの『今夜、すべてのバーで』を挙げていただろうが、今後はそこに、この『失踪日記2 アル中病棟』を加えることになるだろう。

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

 それ以外にも、今せっぱつまって周りが見えなくなっている人が読めば、「こんな世界もあるんだ」と少し楽になるんじゃないだろうか、と思った。あるいはそれは、全ての優れた創作物に共通していることなのかもしれない。