rhの読書録

読んだ本の感想など

第2図書係補佐/又吉直樹

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)

 書店でちょっと目に止まり、なにげなくパラパラとめくってみたら、町田康、野坂昭如、玄侑宗久、アルベール・カミュ、といった絶妙なチョイスが気に入り、ついつい買ってしまった本書。
 ピース又吉。芸人きっての読書家として知られ、特に太宰治好きを広く公言している。
 正直に言うと、そんな又吉氏のことが気になって仕方がなかった。僕も太宰治が好きだからだろうか?ああいった暗い芸風が好きだからか?
 しかし、積極的に彼の著作を手に取ったり、番組をチェックしたりするようなことはなんとなくしなかった。そういう「いかにも」なこと、ミーハーに近いようなことはあまり好きではないのである。要するに、ひねくれ者なのである。
 で、本書について。書評ではなく、本にまつわるエッセイ、というのもちょっと違う。あくまでも基本は彼自身のエッセイであり、そこに毎回必ず何らかの形で本が登場、あるいは紹介される、といった感じか。
 本のラインナップであるが、特に純文学好きには堪らないツボを突いている。
 なんとなく、上に書いた以外で自分の知っている作家を挙げてみると、
 尾崎放哉、織田作之助、大江健三郎、ねじめ正一、宮本輝、村上龍、中原昌也、村上春樹、宮沢賢治、青木淳悟、絲山秋子、大槻ケンヂ、フランツ・カフカ、笙野頼子、高橋源一郎、森見登美彦、吉本ばなな、安部公房、花村萬月
 といった感じ。以前アメトーークで文芸雑誌は毎月購入していると言っていたが、ヒジョーに頷ける選択になっているといえる。青木淳悟の『四十日と四十夜のメルヘン』を推しているあたりで、「こいつ、ガチだな」と感じた。まぁ単に僕が通読出来なかったからなんだけど。
 基本的に日本の純文学を中心に読んでおり、対談の中で翻訳文学は「今から読もうかなという感じ」と語っているが、間違いなく1000冊は下らない量を読んでいることが伺える。貧乏時代には空腹を紛らわせるために本を読んだ、というのだからスゴイ。
 エッセイの内容は、読書家のお笑い芸人というだけあって、お笑いの要素が満載。登場するのは、夜にヘッドホンを聴きつつ号泣しながら自転車で疾走する20歳のピース又吉。左手の缶コーヒーを飲みながら、それを忘れてさらに自販機で缶コーヒーを買おうとしてしまうピース又吉。着物を着ながら古本を持ちながら狐と天狗の面を着けながらサッカーシューズを履きながら「ピース!」と叫びながら街を走るピース又吉。彼のビジュアルを知っているだけに、笑いを禁じ得ない。彼の芸風である、どこか哀愁と奥行を感じさせる笑いは、エッセイでも健在。
 笑いだけではなく、ちょっと心にぐっとくるようなエピソードもある。特に村上春樹作品との出会いのエピソードは、ちょっと出来過ぎていて、作り話じゃないの?と思う程。本当にこんな出来事があったとしたらステキすぎる。出来事自体はちょっとネガティブだけど。 劇団ひとりの『陰日向に咲く』を読んだ時も感じたが、優れた人間観察が特徴的でコント作りなどにも生かされているのだろうなと思った。
 本書の元となった連載は、ピースが舞台に上がっていたヨシモト∞ホールで配られていたフリーペーパーのもの。この本を読んだ、お笑い好きの若者が、本書で紹介されているような本をもっと読むようになったら、日本はもっといい国になるんじゃないかなぁ…と思ったり。孤独でも、貧乏でも、本があれば豊かになれる。そんな希望を感じられる一冊。